2019-10-14から1日間の記事一覧

鎮男40

2012/06/08 22:38 以上が、あの奇妙な像が玄の森公園に建てられることになった顛末である。 私は今、新信州市にあるいわゆる精神病院に収容されている。石田大臣が心筋梗塞で亡くなったこともここで知った。それは、鎮男の銅像が建立される少し前のことだっ…

鎮男39

2012/06/08 22:37 私は、その大臣ともう一度二人っきりで話をする機会を持てた。石田大臣の顔は、初めてみる険しさを漂わせていた。「私は、あれほどあなたに自分の分を弁えるよう忠告したはずだ」大臣は、開口一番、そう告げた。 「大臣。私は、いまさらあ…

鎮男38

2012/06/08 22:35 講堂には、化け物の姿も明彦の姿も見えなかった。薄暗く陰気に静まり返っていた。鎮男は、舞台の上に飛び上がった。スキャナーの中に赤い衣装を着た良也がいた。鎮男を見て、良也が「ムムッ」と小さく唸った。しかし、全身を拘束されていて…

鎮男37

2012/06/08 22:34 「とうとう化けの皮を剥がす羽目になったようだな。丸田」鎮男が叫んだ。「キサマガ アノアホウノオトウトダッタトハ サスガノオレモキガツカナカッタ ダガ スグニキサマモ アノアホウトオナジメニアワセテヤルカラ カクゴスルンダナ」 「…

鎮男36

2012/06/08 22:32 彼女の記事を発表する予定だった週間「見聞録」の編集長古川も、彼女の死と同時刻に自社ビルの屋上から飛び降りて自殺した。その死に他殺を思わせるものは一切なく、家族宛の遺書には人生に疲れてしまったというような旨の文言が認めてあっ…

鎮男35

012/06/08 22:31 彼女は、走り屋たちに混じって、くわえタバコで湾岸を飛ばしながら、いかにして良也を社会的に葬り去るか、その方策について考えていた。15歳になったばかりの明彦は、彼女も驚嘆するほど大人だった。彼は、留学先から手紙を送ってきて、…

鎮男34

2012/06/08 22:30 良也が町中で車を停めさせた。そこは、小さな個人病院の前だった。玄関の看板灯はとっくに消されていた。雨が激しくキャディの幌を叩きつけ、会話さえままならない。良也は、ジローとコンドーに大声で命じて、その病院の駐車場にまぁちゃん…

鎮男33

2012/06/03 23:04 ジローが部屋の隅で真っ青な顔をして立っていた。「おめぇとコンドーとで、川に捨ててこいや」良也がそのジローの顔を面白いものでも見るように笑いながら見て言った。「……」 「なんや? わいの言うことが気に入らんのんか」その声の調子は…

鎮男32

2012/06/03 22:27 この辺は、良也の親父のいわゆる島で、女は組の支配下にあった。したがって、女も良也がどういう人間かをよく知っていた。 「おぇ」良也が運転席のサルに声をかけた。「あの売女、拾うたれや。まぁのあほをあの女に掛け合わせたるんや。あ…

鎮男31

2012/06/03 22:26 ジローには否も応もなかった。彼の言うとおりにしなければ、今度はこの自分がどんな酷い目に会わされるか目に見えている。 彼は、二つ折りになったコンテナを広げてまぁちゃんの傍に置くと、鞄の中から小さなアンプルを取り出した。その透…

鎮男30

2012/06/03 22:25 悪 党 伊地知義明の顔がはっきりと見えた。明彦にそっくりの長身のハンサムな若者だった。頬から顎にかけて青く髭の剃り跡が残っている。 場所は、大学の研究室だった。白衣を着た伊地知青年は、先ほどから古い木の机に向かって憑かれたよ…

鎮男29

2012/06/03 22:24 明彦はと見ると、彼は長身をスキャナーの縁に斜めに凭せ掛け静かに微笑っていた。「明彦君、鎮男は、いったいどうなってしまったんでしょう」私は、心配になって訊いた。今は、彼だけが唯一の頼りのように思われたのだ。「心配いりませんよ…

鎮男28

2012/06/03 22:23 「諸君」良也は、右手を挙げて拍手を止めさせると、獅子吼した。「我がネオゾロアスター教の神聖な夜に、まさに飛んで火にいる蛾の如く、自ら生贄が飛び込んできてくれた。いささか歳を食った、決して美しいとは言えぬが、なかなか歯ごたえ…

鎮男27

2012/06/03 22:21 カウンターから何かが姿を現した。「えっ」思わず声が漏れた。わが目を疑った。それは、女だった。しかもとびっきり美しい。受付嬢の姿をした面長の美しい女が恐怖に震える白い両手を挙げて、カウンターの後ろから立ちあがったのだ。 次の…

鎮男26

2012/06/03 22:20 鎮男は、そのコートを翻してエンジンフードの上に跳び乗った。そして、すぐにルーフに跳び移ると、ゴンドラのスライド式ドアを開けた。バッグを両手で持つと、投げ入れるように中に入れた。その瞬間、Nコロのルーフがベコッという大きな音…

鎮男25

2012/06/03 22:18 私は、鎮男を手伝って、合計12個のコンクリートブロックと四角い穴の真ん中にはめ込まれていた断面が逆T字型をした細長い鋼材を取り除いた。120cm×75cm角のジュラルミン製のコンテナが深さ7,80cmほどのコンクリートの空…

鎮男24

2012/06/03 22:17 ネオゾロアスター 明彦の話は、要領を得ていて実に論理的だった。それによると、ラプラス社は、長年の間、極秘裏に量子コンピュータの開発をしていて、ついに実用段階にまで達した。亡くなった母の意志を継いで、その量子コンピュータを実…

鎮男23

2012/06/03 22:15 そのとき、私は、遠くの方で鎮男が私を呼ぶ声を聞いた。明彦もふとそちらに気を反らしたかのように思えた。 「こうちゃん。どうやった?」「えっ」私は、その方を見た。私は、自分が寝たままの姿勢であることに気がついた。明彦ではなく、…

鎮男22

2012/06/03 22:14 帰り道、車の中で鎮男が独りつぶやくように言った。「これはちょっと、わいが見立てた筋書きと違うてきたようやな」私は、彼の隣に座っていた。「どんな具合に違ごうてきたんや」「分かるやろ。今回の件には、あのおっさんが絡んどる。間違…

鎮男21

2012/06/03 14:53 ラプラス本社は、楓や紅葉、銀杏、それにポプラなどの木々に囲まれた広大な敷地の一画にあった。少し前までなら、これらの木々があたかも金屏風のように、その奥にある空間を神秘的なものにしていたはずだが、今はすっかり金や銅色した葉を…

鎮男20

2012/06/03 14:50 武藤良也は、ラプラス研究所の取締役技術開発本部長の地位にあり、この会社のNo2であった。しかし、社長である武藤真一氏は、高齢に加え大きな持病を抱えていたため、その実権は良也が握っていた。武藤良也は、もともと物理学者であった…

鎮男19

2012/06/03 14:49 鎮男がウォールームと呼んでいる例の地下室で、私たちは今後の戦略について話し合った。「わいは、今回の件で、これまでの自分の考えに疑いを持つようになった。それは、ほんまに明彦は、人類殲滅なんていう大それたことを考えているんやろ…

鎮男18

2012/06/03 14:48 転 生 私は、夜の中央高速をひたすら走った。Nシステムは、間違いなく私の行く先を追っていることだろう。あるいは、遥か上空から偵察衛星が私の行く先々を監視しているかも知れなかった。なにしろ、一国の政府が全力を挙げてわれわれを緩…

鎮男17

2012/06/03 14:47 会談は、というより密談は1時間以上にも及んだ。この奇妙な話し合いで、私たちはお互いの心情を吐露しあい、私は、石田氏の明朗で正直な人柄や政治家としての責任が良く理解できたし、防衛大臣に相応しい資質と力量の持ち主であると確信で…

小説家誕生

2012/06/03 14:32 今日より、kiyoppyはノベリストとなった。空想幻想妄想、頭の中の有象無象をひたすら述べる、吐き出す。 小説家にはそれなりの名が必要だが、当分名なしでいこう。ななしをナナシー、つまり七つの海としても良い。そういえば、七海ちゃんと…

鎮男16

2012/06/03 14:30 石田防衛大臣は、大柄で非常に明朗な人物だった。私は、一目で好感を持った。「まぁまぁ、どうぞ、お掛けください」彼は、この危急の折にも関わらず、にこやかに立ち上がって私を席に座らせると、自らも椅子に腰を沈めた。それを合図のよう…

鎮男15

2012/06/03 14:29 私は、ゆっくりと扉に向かった。鎮男は、すでに片手に鞄を下げていた。そして、隣の部屋へのドアをそーっと開けている。私の顔を見ながら、隣の部屋に移りそっと扉を閉めた。それを確認すると、私は、入り口の扉に向かって声をかけた。「は…

鎮男14

2012/06/03 14:27 「ロビーの雰囲気を見たやろ」エレベーターが動きだすと鎮男が口を開いた。かごの中はわれわれだけだった。「えっ」「それに、地下の駐車場は、運転手付の特別な車ばっかりやったで」「それは、ほんまか」「気がつかなんだんか」「いいや」…

鎮男13

2012/06/03 14:26 おそらく、これらの事件の背景に何らかの強い共通性が感じられたからであろう。それからほどなくして、各放送局は特番を組み始めた。あるいは、同時多発テロという言葉が思い起こされたのかも知れない。確かにこれらの事件は余りに異様で、…

鎮男12

2012/06/03 14:25 「わいは、武藤明彦にはずいぶん前から注目しとったんや。明彦は、小学生くらいのころから既に数学界ではガウス級の天才少年として評判になっとった。そやけど、マスコミの手からは巧妙に逃げとった。それは、彼の父親が大のマスコミ嫌いや…