take the A Streetcar Named Desire

2011/10/22 19:40


バックにデューク・エリントンの「A列車で行こう」を流しながらお読みいただくと、より臨場感が期待できるものと信じます。

アホか、お前ら!

いえいえ、もちろん皆様のことではありません。これは、わたしの大嫌いな井筒和幸氏がある雑誌に掲載しているコラムのタイトルです。とっても下品な題名ですが、実は先日夜の十時過ぎに電車に乗っておりましたら、わたしのような紳士ではありますが、上のような台詞を思わず吐きたくなるような場面に遭遇いたしました。

わたしは、いつものようにドアの辺りで立ったまま本を読んでおりました。おそらく、わたしのような長身で白皙、明眸皓歯、それに禿頭はちょっといけないが品の良い眼鏡、といういでたちの男がwuthering hights などを読んでおりますと、それはもう誰が見ても間違いなくインテリに見えるに相違ありません。・・・というような冗談はさておき、わたしと反対側の扉の近くにもわたしと同じように、青年が一人立って本を読んでおりました。

そのとき、わたしの耳に何か、誰か鼻が悪い人がしきりに鼻をすすっているような、奇妙な音が聞こえてくるではありませんか。わたしはふと本から目を上げ、辺りを見回しました。けれども、席はほとんど満席とはいえ、鼻をすすったり風邪を引いたりしているような人はどこにも見受けられません。おかしいなぁ、とは思いましたが、そのうちにその奇妙な音は止みましたから、わたしは再び本に目を落とすことにしました。
それからしばらくして、わたしが降りる駅が近づいてきました。すると、再びあの変な音が聞こえ出すではありませんか。わたしは、わたしの向かいの三人掛けの席が音源であろうとは思いましたが、果たしてそれが何の音なのかはまるっきり見当もつきませんでした。
やがて、電車が駅に到着したそのときです。降りる用意をしていたわたしの背中の方で、
「おっさん。恥ずかしくねぇのか。電車の中でエロビデオなんか見ていてよぉ」
という声が聞こえました。
折悪しく、電車のドアーが開きました。しかしわたしは、いったい何事だろうと声のした方を振り返ってみました。二人の男がすぐに目に入りました。その一人は本を読んでいた青年で、もう一人は青年の隣の3人掛けの席に座っていた男でした。紺色のスーツにきちんとネクタイを締めた50過ぎの紳士然とした男で、恐らく恥ずかしさのせいでしょう、顔が赤らんでいました。

これで、わたしには全てが明らかになりました。あの鼻をすするような音というのは、青年におっさんと呼ばれたこのスーツ姿の男が携帯だかスマホだかでAVを見ていたらしく、そのAV女優の喘ぎ声がイヤーホンから漏れていたというわけだったのです。

電車を降りながら、わたしは心の中でツィートしていました。

「おっさん、もうすぐ今日も終ろうってのに、ついてなかったな。なにせ一生もんといっても良いほどの恥をかかされてしまったんだからなぁ。けどよぉ、いい歳をして大きな音を出してエロビデオなんか見てたんじゃ、幾ら内心の自由たって、そんなもん通用しないだろうよ。いい歳をして人に人格疑われるような真似してどうするんだよ」

「そして、青年。あんたも何も自分の親父くらいのいい歳こいた男に公衆の面前で赤恥をかかすことはねぇだろうよ。こういうときは、ちょっとばかり、音が漏れてますよ。おならと一緒で恥ずかしいですよ、で十分なんじゃないか」

わたしは、電車を降りながら、ふと冒頭の井筒和幸の言葉を思い浮かべた、というわけでした。