2013/04/16 10:21


相という一見シンプルな漢字だが、わたしはときにこの字に底知れぬ恐ろしさを感じる。
最近、For Whom The Bell Tolls を何度目か読み直してみて、改めてこれを感じた。

思うに、主人公であるロバート・ジョーダンも最初から最後まで(といっても、わずか4日ほどの間だが)これに悩まされていたのだ。

それは、彼がピラールという女ゲリラに手を見せろといわれて手を預けたときから始まる。ピラールはジプシーである。大柄で山岳ゲリラの親分であるパブロの女ということになっている。そのピラールがジョーダンの手を見るやはっとした表情を浮かべる。ジョーダンはさすがに気になって「なにか不吉な相でも出ているのか」とたずねる。するとピラールは「いや、なんでもない。なんにも見えなかった」とかぶりを振るのだが、これがいかにも思わせぶりなのである。

橋の爆破に成功したジョーダンは、パブロたちと共に馬で脱出を図ろうとする。しかし敵の砲撃により転倒した馬の下敷きになって大腿骨を折ってしまう。そして、有名なマリアとの別れのシーンになるのだが、マリアたちと別れて一人ぼっちになったジョーダンは、半ば混濁した意識の中で思うのだ。あのとき、ピラールはすでにこのことを察知していたのではないか、と。

わたしは、アーネスト・ヘミングウェイという作家が、この小説の中でジョーダンにスーパスティションを否定させておきながら、本質的には神秘主義的な傾向をもった人ではなかったのか、という疑いを抱いたのである。つまり、彼自身もわたしと同じく運命論者ではなかったのだろうか、と。

ヘミングウェイノーベル文学賞という最高の栄誉を手にした。しかしその最後はといえば、ライフル銃を口にくわえて自らの頭を吹っ飛ばすという悲惨なものだった。
作中でも、ジョーダンの父親は拳銃自殺したことになっている。そしてやはり最後のシーンでは、ジョーダン自身も激しい痛みの中で自殺をしようか、すまいかと逡巡を繰り返すのである。
もちろんヘミングウェイは、ジョーダンがどういう死に方をしたか詳らかにはしていない。ただ、彼が最後の最後まで敵と戦おうとした姿を描いたまでである。

以前に魁?(かいごう)という駄文をものしたが、わたしはヘミングウェイも間違いなくこの星の下に生まれてきたのだと信じている。