目に見えないもの

2013/04/05 11:26


いま、湯川秀樹博士の「目に見えないもの」を再読中である。すでに「旅人」は読み終えた。

昨夜、湯川氏とも関わりのあった武谷三男の「弁証法の諸問題」というのを開いてみたが、まず内容が難しすぎるのに加え、その文章自体がわたしの琴線(などというものがあれば、の話だが)に触れるものではなかったので、すぐに睡魔に負けて読むのを諦めた。

それに比し湯川氏のものは、まったくけれん味のない静謐な文章であるのに、その透徹した論理の美しさについつい引き込まれていってしまう。

湯川秀樹は、中間子理論によってノーベル賞を受賞した以降の生涯を非局所場理論に捧げた。しかし、非局所場理論には潜在的に避けては通れぬ大問題があった。日本物理学会誌に日本大学原子力研究所の原 治氏による湯川秀樹博士追悼の文がある。

「・・・四次元ミンコフスキー空間における閉局面上で定義された確率振幅を考えられた。これは、それまで時間が一定の面上で考えられていた確率振幅を任意の曲面上に拡張し、相対論的な形式を導入するのにきわめて自然な枠組みを用意したが、これを閉曲面にすることは、原因と結果の分離を不可能にすることを意味し、時空概念や因果律の根本的な見直しを要求するもので、まことに革命的な内容を含むものであった。・・・」

結局湯川博士の困難は、京大時代に机を並べた朝永振一郎博士の超多元時間理論という別方向からのアプローチにより解決されてしまう。朝永博士はこれらの理論によりまたノーベル賞を受賞することになるのである。

しかし、湯川博士の努力はまったくの無駄であったのだろうか。
原治氏は、同じ物理学者であるC.N. Yong のアインシュタインを賞賛する言葉を引用し、湯川氏を追悼されている。

…The two field theories known around that time (1936) were Maxwell’s theory and Einstein’s General relativity theory. Einstein devoted the last twenty years of his life striving to unify these two theories. This effort was not particularly successful, and there has been, for some time, among some people, the impression that this idea of unification was some kind of obsession affecting Einstein in his old age.
Yes, it was obsession, but an obsession with insight what the fundamental structure of theoretical physics should be.
And I would add that insight is very much the theme of the physics today.


C.N. Yang