第二章  絆

 

白牙の日々は群との関わり合いの中に過ぎていった。その間、キッチェは棒に繋がれたままで、一方彼は何かを求め、あるいは何かを探し、あるいは何かを学ぼうとキャンプ中を走り回った。彼はすぐに人間というもののやり方を習得したが、かと言って、そのような慣れ親しみが嘲りに変わることはなかった。彼らを更に学ぶにつれ、その超越性が次第に明らかになり、彼らの神秘的な力を見せつけられるはめになり、その神がかり的な力に圧倒された。

人間のそのような力を見るにつけ、彼は自身の神聖な神殿がボロボロに壊されていくような悲哀を味あわされたが、そのような悲哀は、人間の膝元に平伏す狼や野犬には決して見られることのないものであった。

というのも、人間たちにとっての神とは、目に見えぬ、理解の及ばぬ、現実の日の光に照らされれば霧や霞のごとく消えてしまう幻想、あるいは力や幸いを求めて彷徨える生霊の如きものであり、現実的精神の中にぴょこっと突き出た察知不能のものであるが、そのような人間の神とは違って、彼ら狼や野犬にとっての神とは、彼らが焚火の傍に来て以来の生身の肉体を持ち、触れることのできる、時間と空間を支配し、自らの死と存在意義のために時間を使おうとするものたちなのであった。
このような神を信ずるに信仰は用をなさなかった。このような神は、その意志を見せつけることによって信心を勝ち得るのである。そこから逃れる手段はなかった。ただそこに二本の足で立ち、片手に棍棒を持ち、何を起こすか分からぬ力を持ち、情熱と天を衝く怒りとそして愛情に満ち、その神性と神秘と力の全ては、切り裂けば血の流れる肉、他の生き物と少しも違わぬ喰えば美味い肉に覆われているのである。