奔訳 白牙49

2017/12/03 21:31

彼は自らを養っていかねばならず、その点において実にうまくやってのけたが、それはインディアンの女たちにとっては疫病神であることを意味した。彼はこっそりとキャンプに忍び込むと巧みに、今どこで何が起きているかを眼と耳で敏感に察知し、その情報によって論理的に執拗な迫害者を避ける方法を考えた。

ある早朝のこと、彼はそうして初めて迫害者に大きな復讐を遂げることに成功したのである。キッチェが狼の群れと一緒だったとき、彼女は男たち二人のキャンプから犬たちをうまく誘いだし餌食にしてしまったことがあったが、白牙のやり方もそれに少し似ていて、リップリップをキッチェの復讐の牙の元にうまく誘い出したのである。
リップリップが自分を追いかけてくるように白牙は多くのティピーの間を走り回ったりティピーを入ったり抜けたりした。彼は走りに長けており同じサイズのどの仔犬たちよりも、そしてリップリップよりも速かった。しかし彼は、全速では逃げなかった。追手がもう一跳びで追いつけるというスピードを維持しているのだった。
リップリップは、自分のイジメ相手にもう一跳びで襲い掛かれるという状況に興奮してしまって、注意力と場所の感覚を忘れてしまっていた。そして彼がはっと自分の居場所に気付いたときにはすでに遅かりしであった。
あるティピーを全速力で回り込んだ後、彼は思い切りブレーキをかけたが、そこには棒切れにつながれたキッチェがいた。彼は驚愕のあまり一つ鳴き声を漏らしたが、それが合図であったかのように彼女が懲らしめの顎を強く閉じた。彼女は棒切れによって繋がれていたが、そう簡単には逃がしてもらえなかった。彼女は彼を横倒しにしてしまったので、彼の脚は地に着かず、その間彼女の鋭い牙に何度も何度も苛まれた。

最後には何とか転がるようにして彼女から逃げおおせることができたが、彼は身も心も傷ついてしまって、みっともなくも泳ぐようにして歩かざるを得なかった。彼女に噛みつかれ傷ついたあちこちの体毛が藪のように立っている。彼はようやく立ち上がると、そこで口を開けて長い悲しみの籠った仔犬らしい泣き声を上げた。しかし、このような状況においても彼は完全には許してもらえなかった。
そんな中、白牙は彼に襲い掛かると後足に牙を沈めた。もはやリップリップに闘う気力はなく彼は恥ずかしげもなく逃げ出したが、かつての被害者は後をしつこく追いかけてきて彼が自分のティピーに逃げ込むまで追い打ちをかけたのである。飼い主の女が彼を助けようと出てきたときには、白牙はまさに怒れる悪魔と化していたのだが、流石に次々と飛んでくる石礫には堪らずとうとう追い払われてしまったのであった。