奔訳 白牙41

2017/04/23 14:03

 

灰色の仔は内なる命に突き動かされ、母親の傍に立ち上がり勇敢にも唸り声を上げた。しかし屈辱的なことに、母親は彼を鼻先で押し退け自分の背後につかせたのである。
入口が低すぎて山猫は跳び込むことが出来ず、腹這いになって入って来たところを雌狼が跳躍して覆いかぶさり地面に組み伏せた。しかし、灰色の仔には闘いの様子が見えない。ただ、ものすごい唸り声や喚き声、それに怒号が聞こえるのみ。二匹の野獣は切り裂きあったが、山猫の爪と牙に対し、雌狼が使えるのは牙だけである。

一度、灰色の仔は闘いの中に跳び入って山猫の後足に噛みついた。彼は喰らいついたまま凶暴な唸り声を上げた。彼が重しとなったおかげで山猫の動きが鈍り母親のダメージを軽くしたのだが、彼にそんな考えはなかった。
闘いの進行とともに灰色の仔は二頭に組み敷かれる形になり、喰らいついていた後足が捩じれて外された。次の瞬間、二頭は離れ、再び激突しようとするその前に、山猫は灰色の仔目掛けて巨大な前足を繰り出して彼の肩を骨まで切り裂き、その衝撃で彼は壁まで吹っ飛ばされた。洞窟の中は唸り声に彼の痛みと恐怖からくる悲鳴が加わった。しかし闘いはまだ止まず、灰色の仔は二度目の迸るような勇気を試す機会を与えられ、鬨の声を上げて跳びかかっていった。そうして彼は、闘いが終わっても後足に喰らいついたままずっと唸り声を上げ続けていた。

山猫は死んだ。しかし雌狼の方も傷つき、衰弱していた。最初、彼女は灰色の仔を撫で、深手を負った肩の傷を舐めてやった。しかし出血のために力は弱く、彼女はその日の昼も夜もずっと殺した敵の傍らに虫の息で横たわったままであった。一週間、彼女はただ水を飲むためだけに洞窟を出たが、その動きは痛々しいほどゆっくりしたものであった。その間、彼女の傷が癒え、再び狩に出かけられるようになるまで山猫が食料として貪り食われた。