螺子の回転

2014/07/01 11:42

いつもくだらないことを考えるのがわたしの習性である。

鏡を一枚用意する。ミラーマンことU教授が使ったような手鏡でよい。あと、ボルトとナットが必要だ。

ボルトにナットをねじ込んで鏡に映す。このとき、ボルトの頭は鏡側にする。

そうして、ナットを右に捩じっていくのだ。螺子はふつう右螺子に切ってあるから、ナットを右に回せば鏡の方にどんどん進んでいくはずである。
すると、あら不思議。鏡に映ったナットは、本物のナットと同じ方向に回転(鏡側から見れば逆回転)しているにも関わらずこちらに進んでくるではないか。つまり、いつの間にか右螺子は左螺子に変わってしまったのである。

もうひとついたずらをしてみよう。厚紙を正三角形に切り抜く。ただし、これは思考実験だから、別に手先の器用さは問わない。頭と鋏は使いようなのだ(もう一つの使いようは、後のためにとっておく)。
さて、次にこの正三角形の各頂点に印をつけよう。A,B,Cでもよいが、どうせなら左右対称の文字がよい。だから、「A」、「H」、「O」としよう。
それにもうひとつルールが必要だ。Aを頂点にして底辺の右側の角をH、左側の角をOとしよう。
そうして、この三角形を鏡に映す。もちろん、文字の面が鏡に映るように。
そしてAHOの順に文字がくるよう回転させるのだ。
三角形は、実物も鏡像も同じ方向に回転しているはず(つまりAHOの順番通りに)である。もしも疑うなら、各アルファベットを軸で結んでみるとよい。

上の二つの実験から何がわかるか。
やはり、鏡は左右をではなく、前後を逆にするということである(ただし、正面に置いた場合)。

太神楽で有名な海老一染之助は「おめでとうございま~す」と言いながら和傘の上でなんでも回転させて見せてくれる。だから、次のような文字列もきっと回転させることができるであろう。ただし、染之助ほどのプロにしても、ちゃんと回転させるには3文字以上が必要である。
なぜなら、「ばか」の二文字を何回、何十回と繰り返して口にすればいつの間にか「ばか」が「かば」になってしまうし、「かば」の二文字はいつの間にか「ばか」になってしまうからだ。

だから、「ばか」ではなく「ばかだ」にすればよいのである。
「ばかだばかだばかだ・・・」は何度繰り返しても「かばだかばだかばだ・・・」にはならない。
では、馬鹿だを河馬だにするにはどうすればよいだろう。
簡単なことだ。「ば」と「か」、あるいは「ば」と「だ」、もしくは「か」と「だ」を入れ替えればよい。つまり、どれでもよいから二文字を入れ替えるのである。

このことを上の正三角形の例に置き換えてみよう。「AHO」の替りに「ばかだ」とマーキングする。
二文字を入れ替えるということは、正三角形の頂点をそのままに底辺の二文字を入れ替えるということである。底辺の二文字を入れ替えるということは、すなわちこの正三角形を裏返すということである。これはまた、回転方向を逆にするということである。