奔訳 白牙38

2017/04/11 20:45

彼が泣き叫びながら後退さりしているうちに、母鼬は我が仔に飛びついて近くの藪の中に連れ去った。母鼬に傷つけられた首の傷は、実際の痛み以上に強く感じられ、彼はその場に座り込んで弱々しく泣き続けた。母鼬は小さな身体にも関わらずとても凶暴であった。ここでもまた彼は、大きさや重さからしても鼬というのは最も獰猛で執念深く、この世の中で最も恐ろしい肉食獣であることを知った。そしてこのような経験はすぐに彼のものとなった。

彼は母鼬が再び現れたので泣くのを止めた。彼女は、自分の仔の安全が確保されたせいか、いきなり襲いかかろうとはせず、用心深く近寄ってきて、そのおかげで灰色の仔は、その蛇のようにほっそりした身体や、まさに蛇のように擡げた頭やその鋭い眼をよく観察することができた。
彼女が上げる鋭い凶暴な叫びに、彼は背筋の毛を立てながらも唸り声を上げて威嚇した。彼女はだんだんと近くに迫ってくる。そして彼の未熟な眼では捉えられないスピードで跳躍し、彼の視界からその痩せた黄色い身体が消失した。次の瞬間、彼女の歯は彼の喉に埋っていた。

初め、彼は唸り声を上げ闘おうとしたが、彼は余りに幼く、それにそもそもこれが世に出た最初であり、その唸り声は泣き声に、闘いは逃走へとすぐに変わってしまった。しかし鼬の方は決して離れようとはしない。彼女はぶら下がったまま、その歯を彼の命がぶくぶく音を立てている静脈まで押し立てようと力を入れてくる。鼬というのはそもそも血を吸う生き物であり、喉から吸い取るのが大好きなのだ。

このまま灰色の仔は死ぬかも知れなかった、が、それではこの物語もお終いとなってしまったであろう。しかしそのとき、雌狼が藪を飛び越えて駆けつけてきた。
鼬は灰色の仔を離すと雌狼の喉を目掛けて跳びかかったが、狙いは外され逆に雌狼の顎に捉えられてしまった。雌狼は首を鞭のように振ると鼬を空中高く放り上げた。そして、まだ鼬が空中にいるうちに再び顎が痩せた黄色い身体を挟んで閉じ、鼬は自らの死を上下の歯が咬み合わさる音で知らされたのであった。
灰色の仔はここでもまた母親の愛情の深さを経験した。彼を見つけた時の彼女の喜びようは、彼の見つけてもらった嬉しさよりもずっと大きいように思われた。彼女は鼻先を彼に押し付け、愛しむように撫で、鼬の歯で切られた傷を舌で舐めた。それから、彼らは、母と仔は二人して吸血獣を喰い、喰い終えると洞窟に戻って眠った。