奔訳 白牙39

2017/04/14 13:34


第五章 肉の掟

灰色の仔の発達は目覚ましかった。二日間休んだだけで、再び洞窟を出て探検へと出かけたのである。そして、その探検の途中で彼は、彼が雌狼のご相伴に与った母鼬の幼い仔が母を探し回っているのを見た。今回の探検では、彼は迷うことはなかった。疲れを感じると洞窟にちゃんと戻って寝たのである。そして、それ以降の探検は毎日のように範囲を広げていった。

そのような中で、彼は自分自身の強さや弱さを正しく知り、大胆に振る舞うべきときと慎むべきときが分かるようになっていった。ときに自分の勇敢さに対する自信から、些細な怒りや欲望に我を忘れることもあったが、大抵は用心深く行動した。

彼は、ライチョウを見つけると、怒りに燃える小さな悪魔になった。ところが、栗鼠に対しては、最初に松の上から口汚く罵られたときのようにはやり返さなかった。ムースバードに出会うと、いつも狂ったような怒りに襲われたが、それは初めての探検の折にこいつの同類に鼻を突っつかれたことの恨みからであった。

彼がムースバードに関心を持たなくなるまでには、また獲物を探してうろつき回る他の肉食動物の危険を感じなくなるにはまだまだ時間が必要であった。彼は決して鷹のことを忘れてはおらず、影の動きを察知すると姿勢を低くしてすぐに近くの藪に逃げ込んだ。
彼はもはや決して腰を抜かしたり躊躇したりはせず、母親と同じ絹のように滑らかで音の立たない、無駄な力を一切使わない、それでいて滑走するように速くて敵の目を欺く走り方を身に着けていた。

肉の幸運は最初だけであった。ライチョウの雛七匹と鼬の仔一匹が彼が仕留めた全てであった。彼の狩猟本能は日が経つにつれ強くなってきており、狼の仔が近づいてきているぞ、と木の上から多弁に周りの生き物たちに知らせる栗鼠についてはいつか喰ってやりたいという欲望を胸に抱いていた。しかし、鳥が空に舞っている間、彼らは木に駆け上がってしまうので、忍び寄って襲えるのは彼らが地上にいるときだけだった。

灰色の仔は、自分の母親を非常に尊敬していた。彼女は獲物を捕まえても、決して自分の分け前を忘れなかった。それに、彼女はまったく恐れを知らなかった。この仔は、この恐れ知らずが経験と知識に基づくものであることをまだ知らなかったのである。この仔には、力ばかりが目に映ったのである。母親は力の体現であり、彼は大きくなるにしたがって、その力を前足による鋭い叱責の中に感じとり、また鼻の突っつきによる非難を牙による切り裂きと同じものと捉えるようになった。そして、これにより彼は、一層母親を尊敬したのである。彼女は自分に従うよう彼に強制したが、大きくなるにつれ、彼はこれに背いて彼女を怒らせるようになっていった。