奔訳 白牙37

2017/04/09 20:25


激流の下は二つ目の淀みで、彼はここで渦に捕まり、緩やかに岸へと運ばれて、そして緩やかに捨てられるように小石の河床へと投げ出されていった。彼は狂ったように足で水を掻いて岸に辿りついた。
彼はまたここで世界について学んだのだった。水は生き物ではない、ということ。しかし生き物のように動くということ。それに見た目は地面のように硬そうだが、実際にはまったく硬さというものがない、ということ。これにより彼の出した結論は、物事はいつも見た目とは違うということであった。
この仔の未知に対する恐れは不信から来ていて、それは今体験によって裏打ちされたのである。それ以降、彼の中で物事の性質について見た目を疑うということが信念になった。彼は自分の思い込みよりも先に物事の現実を学ばねばならなかったのだ。

もう一つの冒険がその日、彼を待っていた。彼は、それまでに自分の身に起こった多くのことを自分の母親のことを思い出すように思い出していた。そしてその時に、自分が何よりもこの世界で求めているものが母親であることに気がついた。それまでの冒険で疲れ果てていたのは身体だけではなく、小さな脳の方も同じように疲れていたのである。それまで彼の生きてきた日々は今日の一日ほどに厳しいものではなかった。それに加え、彼は眠かった。それで彼は、押し寄せてくる堪えられぬほどの孤独感と無力感とに同時に苛まれながら、巣である洞窟と母親を探し始めた。

そのとき彼は藪の間にだらりと寝そべっていたのだが、鋭い脅かすような叫びを聞いた。彼の目が黄色い閃光を捉えた。彼は彼の前を鼬が素早く跳ねながら通り過ぎるのを見た。それは余りに小さくて、彼は怖くなかった。すると彼の足もとを、非常に小さな、わずか十センチ足らずの鼬の仔が、ちょうど彼と同じようにやんちゃな冒険をしようと巣を飛び出してきたのが目に入った。その仔は彼の目の前で引き返そうとした。彼はそれを前足でひっくり返してやった。するとその仔は奇妙な歯軋りのような音を立てた。次の瞬間、黄色い閃光が再び彼の目に入った。彼は再び脅しのような叫びを聞き、同時に首の横に鋭い一撃と母鼬の歯が彼の肉を切る鋭い痛みを感じた。