西と東

2011/03/31 21:57


今回の大地震のおかげで、電気の有難みが分かったという人も多いのではないだろうか。特に、何日おきかに何時間かの停電を余儀なくされる人は一入であろう。そうでなくとも、勤め先が停電になると、まったく仕事になどならない。
そして、そういう時にふと思うのである。
なぜ、電気は西と東とでは周波数が違うのだろう? と。そして、さらに毎日のように流される原発事故の放送に、あれっと思ったりする。なぜ、東京電力原発はBWRで関西電力はPWRなのかと。
関西は、というより富士川を挟んで西の電気は60Hzである。そして、東側は50Hzである。これはものの見事に、まるで分水嶺のように綺麗にここで分かれる。この理由は、日本に電灯が灯った頃に遡る。当時、東京電力の前身である東京電灯がドイツから発電機を輸入したのに対し、大阪電灯(今の関西電力)はアメリカから輸入したためである。当時は、電力会社名が示しているように、電気の主たる使途は電灯にあった。したがって、50Hzであろうが60Hzであろうが、なんら問題はなかったのである。

ところが、今日のように、蛍光灯やモーターなどの動力機器が負荷の大部分を占めるようになってくると、当然のように問題が生じてくる。今でこそ、洗濯機などのいわゆる白物家電は、西でも東でも同じように使えるが、昭和30年代の洗濯機は、そうはいかなかった。たとえば、西で使っていた洗濯機を引越しで東に持っていくと、洗濯槽の底に付いている船のスクリューのようなものの回転数が5/6に下がってしまうため、モーター側に大小二つのプーリーが付いていた。東に引っ越した場合には、このプーリーを小から大に変えなければならなかった。ここで、プーリーとはpullyで、滑車のことである。この滑車の溝はV字型になっていて、このV字型の溝に、断面がV字形、というより台形をしたベルト(Vベルトという)がぴったり収まるようになっている。当然にプーリーは二つあって、Vベルトはその二つにあるテンションをもって掛かっている。モーター側のプーリーが回転すると、洗濯槽に付いたスクリュー側のプーリーもベルトに引かれ(Pull)て回転する。昔の洗濯機はこういうごく単純なものだったのである。

ところで、今、切実な問題になっている東京電力管内の電力不足は、発電所の多くが津波により故障したことが原因である。しかし、東京電力よりも西にある関西電力などは幸いにして大きな被害を受けなかった。つまり、西の電力は今の時期、余ってさえいるはずである。では、なぜこれを融通してもらえないのか。それは、上の明治以来の電力政策のせいなのである。西は60、東は50という、今となっては本当に奇妙とさえ思える電気の東西分割のために、互いに融通しあうことができない状態になってしまった。
もっとも、富士川の境に交直変換装置というものがあるから、今では最大130万キロワットくらいの融通は可能になっている。今後は、巨額な費用が掛かるであろうが、これをもっともっと大きなものにする必要があるように思われる。

原子炉の方式についても、東京電力BWR関西電力がPWRなのは、国策によるものである。アメリカのメーカーであるGEがBWRを開発し、WHがPWRを開発した。そして、日本のメーカーである東芝と日立がGEの方式を、そして三菱がGEの方式を採用したのである。

今回の福島第一原発は、このBWRの持つ本質的な弱点がそのまま事故の拡大につながったように思える。なぜなら、BWRの場合、水は約7MPaという圧力の中で沸騰するため、必然的に制御棒は炉心の底から上下に動かして核反応を制御することになる。そのために、制御棒が貫通する穴や軽装機器のケーブル等を通す穴が開いている。燃料棒が破損してペレットなどがここに落ちてきた場合、再臨界とまではいかなくとも、ここで大きな崩壊熱を放つことになる。そうすると、たとえ炉心の厚さが150mmあろうとも、この穴の部分は比較的容易に熔けたり、あるいは隙間ができやすくなったりしてしまう。

RWRにも装置が複雑になるという欠点もあるが、14MPaという圧力に押さえ込まれて、冷却水は沸騰することなく熱交換器に送られる。蒸気になるのは熱交換器の二次側の水なのである。結局、PWRでもタービンに送られる蒸気は7MPa程度の低圧蒸気になってしまうため、寸法の大きな低圧タービンを使わねばならず、熱効率も悪くなる。つまり、熱効率という点では、両者には大した違いは無い。
ただ、やはり今回の事故のように燃料棒が破損するようなシビアな事故を考えた場合、PWRの方が安全性に分があるように思える。