Jack Daws7

2013/02/04 13:17


「ストームバンフューラ・ウェーバー」と彼はナチス親衛隊が好んで使い、彼自身も通常の警察よりも優越を感じることができる階級を使った。<?xml:namespace prefix = o ns = "urn:schemas-microsoft-com:office:office" />

「なんという俺は間抜けだ」とディーターはつぶやいた。これでは警備が抜けているのも不思議ではない。

ウェーバーとディーターは20年代にケルンの警察で同僚の間柄だった。ディーターの出世は彼の特権階級的な生い立ちによるものであると、(ディーターの生い立ちは決して極めて特権階級的なものではなかったが)沖仲士の倅であるウェーバーはそう思っていた。

結局、ウェーバーはくびになった。そのときの出来事をディーターは細部まで思い起こし始めていた。それは交通事故が発端だった。やじ馬が集まってきたので、ウェーバーはパニックになって拳銃をぶっ放し、やじ馬の一人を殺してしまったのだ。

ディーターは15年ほどこの男と出会っていなかったが、彼にはウェーバーのキャリアが目に浮かぶようだった。彼はナチに入党すると、志願して組織員になり、警察での訓練を買われてゲシュタポに入ることが出来た。そして、このような二流の酷い組織だったから一挙に昇進を果たすことが出来たのだ。

「ここで何をやっているのだ」とウェーバーは言った。

「お前さんの警備の様子をチェックしている、陸軍元帥に成り代わってな」

ウェーバーはいきみ立った。「俺の警備なら万全だ」

「ああ。ソーセージ工場の警備だったらな。周りを見てみろ」ディーターは町の広場の方を指して手を巡らせた。

「もしもあそこの者たちがレジスタンスだったとしたら、彼らはほんの数秒でお前さんの警備兵を狙い撃ちすることができる」そう言って、彼は夏用の軽いコートを着た背の高い女を指差した。

「もしも彼女があのコートの下にマシーンガンを忍ばせているとしたら? もしも……」

彼は黙りこんだ。

これはひょっとすると、自分がたった今思いついた御伽噺ではないのかも知れない、そのことに彼ははっと気が付いたのだ。彼は無意識のうちに広場の人々が戦闘の陣形をとっていることを見抜いていた。あの小柄なブロンドの女とその亭主はバーの影に身を隠していた。教会の戸口に立った二人の男は柱の影に移った。背の高いサマーコートを着て先ほどまでショーウィンドーを食い入るように見ていた女は、今はディーターの車の影に立っていた。ちょうど、ディーターが彼女を見たとき、その女のコートがぱっと開き、ディーターがあっ気にとられたことには、たった今自分のイメージした光景がそっくりそのまま、まるで予知夢ででもあったかのように、コートの下からスケルトンフレーム、明らかにレジスタンスが好んで使うサブマシーンガンが現れたのだ。「何てこった」と彼は叫んだ。

彼は、上着の内側に手をやったが、銃を帯びていなかったことに気が付いた。

ステファニーはどこだ。彼は周りを探した。瞬間、パニックになるほどのショックを受けた。彼女は彼の後ろに立っていた。ウェーバーとの話が終わるのを辛抱強く待っていたのだ。「伏せろ!」と彼は叫んだ。

同時に、爆発が起こった。

 

第3章

 

フリックはカフェ・スポーツの戸口でマイケルの後ろから爪先立ちに様子を伺っていた。警戒心から、心臓は激しく波打ち、筋肉は次の行動に備えて緊張していたが、その脳には氷水のように冷たい血液が流れ込んでいた。彼女は状況を冷静に、そして超然と秤にかけていた。

目に見える範囲には8人の衛兵がいた。通行証のチェックをしているのが2人、別の二人はただ門の中にいるだけ、門の中にもう2人、鉄の柵の中をパトロールしているのが2人、城への入口に通じる短い階段を上った広場のところに二人。しかし、マイケルの主部隊は門を迂回するだろう。

長い教会の北面の建物は城を取り巻く壁の一部になっていた。北の翼廊は数フィートほど、かつては庭園であった駐車場へ突き出ていた。城主は過去の遺物とでもいうべき個人的な入口を教会に持っていて、翼廊の壁に設けられた小さな扉がそうだった。その通路は板ごしらえの上に漆喰を使って百年以上も昔に固められ、今日に至るまでその通り道を残していた。

一時間前、ガストンという引退した石切工が空の教会に入り、慎重に半ポンドの黄色いプラスチック爆弾を4つ、閉鎖された通路の足元近くにセットした。彼は雷管を挿入すると、4つ纏めて接続し、親指でスイッチを押すと5秒後に同時に爆発するように配線した。それから彼は台所の竈から灰を持ってきてその全部に振りかけて目立たないようにすると、さらに通路のところにある古い木製のベンチにまで移動し、自分の仕事に満足したようにひざまずいて祈りを捧げた。

教会の鐘の音が止んだとき、会衆席から袖廊へ数歩進んだ所でプランジャーを押し、すばやく後ろの陰に身を隠した。爆発の衝撃はおそらく何百年もの塵埃をゴチック建築のアーチから振るい落としたに違いない。しかし、袖廊には礼拝の間は誰もおらず、したがって傷つく者はいないはずだった。

爆発の衝撃のあと、長い静寂が広場を包んだ。誰もが凍り付いていた。門の衛兵、塀のパトロールをしていた哨兵、例のゲシュタポの少佐、それにあの魅力的な女を連れた身なりの良いドイツ人。フリックは不安に強張った顔で広場の向こうを、そして鉄のガードレールの向こうにある広場を見た。駐車場の中は17世紀の庭の遺物であり、かつては勢いよく水の流れていた辺りに、3人の子供が遊んでいる姿の苔の生した石像と石造の噴水があった。大理石の円形競技場の周りにはトラックや軍用車やドイツ軍の灰緑色に塗装されたメルセデスのセダンが停まっており、別に黒のシトロエンが2台、城の高い窓の前で、城の風情とは全くそぐわないガソリンポンプで給油していた。数秒間は何事も起こらなかった。フリックは息を止めて待った。

教会の集会の間は10人の武装兵が固めていた。牧師はシンパではなかった。その上、何の警告も受けてはいなかった、したがって、このように多くの人々が午後の礼拝に現れるなどというかつてない事態を喜んでいたかもしれなかった。彼はなぜ彼らの多くが奇妙な服装をしており、一人の男などは着るべきジャケットが無いのか教会にレインコートを着て来たことに驚いたに違いなかった。そして今、フリックは牧師が全てを悟ってくれることを望んだ。その瞬間、10人は彼らの席から飛び跳ね、銃を抜き出し、そして開いたばかりの壁の穴に向かって突っ込んでいった。