2019-10-18から1日間の記事一覧

悲母観音像 11 完

2013/02/26 10:29 *** 白旗陽子は、病院近くのスターバックスでお気に入りのアールグレイティーとスコーンを前に清家菜穂子との会話を楽しんでいた。菜穂子が携帯で非番の陽子を呼び出したのである。陽子は、高校まで菜穂子とは同じ学校に通った。性格は…

悲母観音像 10

2013/02/26 10:28 スピーチは随分と長く続いた。20分、いや、30分が経過していた。太一は、時計を見た。10時35分。そのとき、銅像に動きがあった。太一の位置からは、しかとは確認できなかったが、観音像の裾の辺りを縛っていたロープが解かれたよう…

悲母観音像 9

2013/02/26 10:26 *** 鶴見太一は、今年66歳の誕生日を病院で迎えた。退院した後も、このごろではインターネットでチャットをするのがもっぱらの楽しみになっていた。60歳のときに妻をがんで亡くして以来、ずっとやもめ暮らしを続けてきた太一の家は…

悲母観音像 8

2013/02/26 10:25 都築の話を聞いていくうちに、田辺は、コーヒーカップを持つ手がぶるぶると震えだすのを感じた。と同時に激しい眩暈に襲われた。彼は、都築にその内心の動揺を気取られないよう、そっとカップをテーブルの上に置くと額に手を当てた。そして…

悲母観音像 7

2013/02/26 10:24 ***男の名前は、丸木良也といった。彼は今、少年刑務所に収監されていた。この男には、幼児殺しの反省など欠片もなかった。そればかりか、自分が殺したあの幼子のことを思うたびに胸が熱くなった決して改悛の情に苛まれて熱くなるわけで…

悲母観音像 6

2013/02/26 10:22 *** 大樹は、その決行の日を一月後と決めた。彼は、コンピュータを使って、陽子宛のメッセージを認めた。「陽子様へ。お願いがあります。最近、ぼくは、彫刻家の都築拓海先生をテレビで見て、ぜひ一度お会いしたくなりました。先生は、…

悲母観音像 5

2013/02/26 10:21 では、ぼくは、何のために神が与えたもうたこの力を使うのか。ぼくは、椿野に、あの髭もじゃの、自分の栄達しか考えていないおやじに言ったように、この世の悲惨をもうこれ以上見たくはないから使うのだ。ぼくは、オスカーワイルドのあの金…

悲母観音像 4

2013/02/26 10:20 大樹は、自分のその能力を自覚していた。しかし彼は、決してそれを過大評価することはなかった。優れたジャグラーがいくつものボールを両手で自由自在に扱うように、自分は、人の心を精確に見抜き、そして自在に操作することが出来るという…

悲母観音像 3

2013/02/26 10:19 実際に大樹の知識の修得量は凄まじかった。彼は、ほどなくしてすべての科目において中学の教師たちをも感嘆させるようになっていった。数学の教師などは、とっくに白旗を上げていた。彼は、ファインマンがオイラーの宝石と呼び、小川洋子の…

悲母観音像 2

2013/02/26 10:14 幸いという言葉を使って良いのだろう。比較的患者の少ないこの国立病院で、陽子は、ほとんど専属のように大樹を看てきた。8年間、この子は、両祖父母からもまるで厄介者のように扱われてきた。陽子は、この子の両親が互いの親の反対を押し…

推理小説?もどき 悲母観音像

2013/02/26 10:12古川大樹シリーズ 第一話 悲母観音像(仮題) 古川大樹は、2歳のときから10歳の今日に至るまでずっと病院での生活を余儀なくされてきた。病気に罹ったわけではない。それは、まるで突然闇が落ちてきたかのように、余りに唐突に彼の人生に…

観光旅行

2013/02/22 17:18 今日、ある人と話をしていて、ふと昔聞いたちょっとばかり気の利いたシャレ、というかジョークを思い出した。それを、含み笑いしながらその青年に披瀝すると、その子は、あっ、それうちの親父から聞いたことがある、と言って大きく目を見開…

ハッシーへの伝言

2013/02/18 08:59 ハッシー(呼び捨て御免)への伝言 テレを隠すには、架空のひとへの伝言を装うしかない、ような気がする。それとも、いっそ小説にしてしまった方が良いかもしれない。 最近、小、中、高と同じだった女性を夢に見ては切ない思いをしていた。齢…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 7

2013/02/14 10:29 7 Brenin liked fighting. I suspect he was happy when he was fighting. This was too bad, because I never let him do it. I tried to excise this aspect of personality, but without any real success. And it was only when he be…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 6

2013/02/11 12:51 So I suspect there was always a natural misanthrope within just waiting for his chance. He was kept pretty much in his box during my early years. But when I got to Ireland, his time had come. Given that I was useless at ma…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 5

2013/02/11 12:50 It was the location I really loved. The lodge was a couple of miles or so outside Kinsale on the Rathmore peninsula. The main house to which the lodge was attached was derelict. This meant that Brenin , Nina and I had coup…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 4

2013/02/11 12:49 We moved out of Cork City a few months later,. The woman next door and her son were very sorry to see us go. When your life is made miserable by a big and vicious dog, and your civilization won’t do anything about it, then…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 3

2013/02/11 12:48 Then there was a knock on the door. The Guards were here already. I pulled back the curtains and peered around to the front door, my mind racing with thoughts such as just how, exactly, does one conduct oneself in a siege …

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF 2

2013/02/11 12:46 Despite the unremitting torment, however, Brenin was very protective toward Nina. Allowing neither dogs nor any people to come anywhere near her. And this brings me to my second slice of luck that week. One night, around m…

THE PHILOSOPHER AND THE WOLF

2013/02/11 12:44 The pursuit of Happiness and Rabbit 1 During the years in Ireland, Brenin was in his prime. He had grown truly massive, standing thirty-five inches at the shoulder and weighing close on 150 pounds. He was as tall as the Gr…

Jack Daws12

2013/02/05 13:02 彼女は敵意を込めて彼を見た。「何でお前に言わなきゃいけねぇんだよ」 彼は肩を竦めた。この程度の反抗はどうってことはなかった。彼はこの手の口答えは百回も経験してきているのだ。「お前さんの家族なんぞがお前さんがどうなっているの…

Jack Daws11

2013/02/05 13:00 電話交換手たちはどうやら背後のグランドに逃げたようだったが、すでに銃撃は止んでおり、彼女らのうちの数人がヘッドセットを頭にマイクロフォンを胸に付けたまま、ガラス扉を前に、もう中に戻っても安全だろうかと思案している。ディータ…

Jack Daws10

2013/02/04 13:23 2分間、何事もなく過ぎた後、失敗の大きさが彼女を襲った。ボーリンジャーサーキットの大方が一掃されてしまった。アルバートやその他のメンバーは殺された。ジェネビェーブ、バートランド、それに他の多くの生き残りはきっと拷問にかけら…

Jack Daws9

2013/02/04 13:21 当たりはしなかったが、弾丸は彼の顔付近の壁から石の欠片を吹き飛ばし、少佐は思わず屈みこんだ。マイケルは走り続けた。少佐はすぐに立ち直り、銃を再び構えた。マイケルは目指す場所にたどり着いたが、同時に少佐にも近づいたことになり…

Jack Daws8

2013/02/04 13:20 最後の瞬間、彼らは教会の端の方から視野に入ってきた。古びた帽子を被り擦り切れた靴を履いた寄せ集めの軍団が、泥を跳ね上げ、それぞれの武器を小脇に抱え――オートマチックピストルやリボルバー、ライフル銃、それに機関銃が一機――駐車場…

Jack Daws7

2013/02/04 13:17 「ストームバンフューラ・ウェーバー」と彼はナチス親衛隊が好んで使い、彼自身も通常の警察よりも優越を感じることができる階級を使った。 「なんという俺は間抜けだ」とディーターはつぶやいた。これでは警備が抜けているのも不思議では…

Jack Daws6

2013/02/04 13:16 彼女は魅力的な男の連れと一緒だったが、その男は余り彼女には関心がなさそうだった――恐らく彼女の亭主なのであろう。ディーターは彼女と話がしたいがために写真を撮ってくれるように頼んだのだ。彼には妻と二人のかわいい子供がケルンにい…

荒野のおおかみ

2013/02/04 12:36荒野のおおかみ なぜこの駄文に「荒野のおおかみ」などという大仰なタイトルを付けたか。いったいどのような思惑があってヘルマン・ヘッセの有名なファンタジーから題名を借用したのか。それはわたしが、ヘッセが「荒野のおおかみ」を書いた…

Jack Daws 5

2013/02/01 13:05 数分前、その男はフリックにシャトーをバックに彼とその連れの女の写真を撮ってくれないかと頼んで、彼女の肝を冷やさせた。彼は自信たっぷりの笑顔を浮かべ礼儀正しく話しかけてきたのだが、その言葉にはかすかなドイツのアクセントがあっ…

Jack Daws 4

2013/02/01 11:58 マイケルの攻撃計画はMI6、つまりイギリス諜報機関の情報に拠っていた。それによるとシャトーはSSからの派遣による12人ずつ3交代の警護隊によってガードされていた。シャトーの中のゲシュタポたちは兵ではなく、そのほとんどは武装…