Jack Daws12

2013/02/05 13:02


彼女は敵意を込めて彼を見た。「何でお前に言わなきゃいけねぇんだよ」
 彼は肩を竦めた。この程度の反抗はどうってことはなかった。彼はこの手の口答えは百回も経験してきているのだ。「お前さんの家族なんぞがお前さんがどうなっているのかと心配しやしないかと思ってね。もしも我々がお前さんの名前を教えてもらえれば知らせることもできる」
 「あたいはジェネビェーブ・デリースだ」
 「美しい女性にはぴったりの名前だね」彼は彼女に立つように合図した。
 次に入ってきたのは60歳ほどの年配の男で、頭から血を流しており、足を引きずっている。ディーターが言った。「この手の仕事をするにはちっとばかり歳をとり過ぎているんじゃないかね」
 その男は誇らしげに胸を張った。「わしが爆薬をセットしたんだ」と反抗的に言った。
 「名前は?」
 「ガストン リファーブ」
 「ちょっとだけ考えてみたまえ、ガストン」ディーターは親切そうな口調で言った。「苦痛はお前さん次第ということだ。お前さんが止めようと思えばいつでも止めることが出来る」
 今自分が目の前にしているものが何なのかが、恐怖という姿になって両目に忍び込んできた。
 ディーターは満足して頷いた。「連れて行け」
 若いのが次の番で、17歳を越えてはいないだろうとディーターは踏んだが、その美少年は明らかに恐れているのが見て取れた。「名前は」
 彼は躊躇していたが、それはショックで頭が真っ白になっているためだった。しばしの黙考の後、彼は答えた。「バートランド・ビセット」
 「こんばんは、バートランド」とディーターが楽しそうに言った。
 「ようこそ、地獄へ」
 少年は、まるで今手で叩かれたようにびくっとした。
 ディーターは少年を手で押して行かせた。
 ウィリー・ウェーバーが、鎖につないだ猛犬でも従えたようにベッカーを後ろに引き連れて現れた。
 「どうやってここに入ってこれた」ウェーバーぶっきら棒にディーターに言った。
 「ただ普通に歩いて入ったさ」ディーターは答えた。「お前さんちの警備はまるでなっちゃあいない」
 「何をばかなことを! お前はたった今我々があの大々的な襲撃を返り討ちにしたのを見たばかりだろう!」
 「1ダースばかりの男とそれに数人の女をな!」
 「我々は彼らを打ち破った、要はそういうことだ」
 「ちょっとよく考えてみろよ、ウィーリー」ディーターは諭すように言った。「奴らはお前さんたちに気づかれずに、ごく近いところまで結集し、広場まで突き進んで、少なくとも6人の優れたドイツ兵を殺した。私が思うにお前さんたちが彼らを阻止できたのは、単に彼らがお前さんたちの数を過小評価していたからに過ぎない。また、私はこの地下室に何のお咎めもなしに入れたのは、警備兵がそのポストを離れていたからだ」
 「彼が勇気あるドイツ兵で、戦闘に加わりたかったからだ」
 「ああ、何と言うばかだ」とディーターはがっかりして言った。「戦闘中に兵はそのポストを離れてはならんのだ。彼は命令に従わねばならない」
 「軍事上の規律についてのレクチャーなぞお前の口から聞きたくはない」
 ディーターはもはや観念せざるを得なかった。「そんなことをしているつもりはない」
 「それでは何が望みなんだ」
 「私はあの捕虜たちを尋問したいんだ」
 「それはゲシュタポの仕事だ」
 「そう頑なになることもないだろう。ロンメル将軍は、レジスタンスが侵略時の通信に与える損害の規模を抑える為に、ゲシュタポにではなく、私に聞かれているのだ。この捕虜たちは途方もない価値の情報を与えてくれるかも知れない。だから私は彼らを尋問しなければならんのだ」
 「彼らがわしの監督下にあるうちはだめだ」ウィーバーは頑固に言い放った。「わしがあいつらの尋問を直々に行って、その結果を将軍に送ればよい」 
 「連合軍は恐らく今夏に侵略してくるだろう――こんな縄張り争いをしている場合ではない」
 「せっかくの有能な組織を利用しない手はない」
 ディーターは声を上げて叫びたかった。絶望のなか、彼は己のプライドを何とか抑え、歩み寄りを試みた。「それじゃあ、一緒に尋問をやろうじゃないか」
 ウィーバーは勝ったとばかりににやりとした。「そんなことは絶対にだめだ」
 「それでは、私がお前さんの頭越しにやることになる」
 「できるならやってみるんだな」
 「もちろん、やるとも。お前さんがやっていることは時間の無駄だ」
 「好きなように言ってろ」
 「このばか者が」ディーターは荒々しく言った。「神はお前のような偽愛国者からわが祖国を守らねばならん」彼は踵を返し、大股で出て行った。