狼王ロボ3

2014/11/11 20:24

彼ら一味は、喰うためにではなく、ただ単に面白がって羊を脅かしたり殺したりしていたのである。

羊は、千頭から三千頭の群れにして、たいてい一人か数人の羊飼いが守っていた。ある夜、その羊の群れが最も安全な場所に集められた。羊飼いたちは、もしものときに備えてその両サイドに分かれて寝た。

羊というものは、非常に些細なことにでも恐慌を来してしまうが、もう一つ、これが彼らの心理に生まれながらに浸み込んだ最大の弱点ともいえるのが、一頭のリーダーの後についていってしまうというものである。

しかし、羊飼いたちはこの弱点を逆にうまく利用することを考えだした。山羊を半ダースほど羊の群れの中に放り込むのである。そうすると羊たちは、この髭を蓄えた自分たちより知的にも優れた従兄を認め、夜襲がかかったときには、皆それぞれに彼らの元に集まるのである。これにより、たいてい恐慌は収まって、羊を守ることが容易になった。

ただ、いつもそううまくいくわけではなかった。
十一月の夜遅く、ペリコ出身の二人の羊飼いが狼の夜襲にあった。羊たちは知恵も度胸もある山羊の周りに集まったが、不幸なことに、彼らを襲ったのは普通の狼ではなかったのである。
古王、人狼ロボは、羊飼いたちと同様に、山羊が羊たちの精神的支柱になっていることを知悉していた。それで、この羊の後ろに勢いよく回り込むと、これら髭のリーダーに襲い掛かった。数分のうちに、彼らを切り刻むと、羊たちはあっという間に四方八方へと逃げ出した。

そのことがあってからの数週間、わたしは毎日のように憔悴した羊飼いたちから声を掛けられた。ある者からは「最近、迷った羊を見なかったかい」と尋ねられた。聞かれたわたしは、いつも通り義務感から見たとおりのことを伝えた。ある日、「ダイヤモンドスプリングスで五頭か六頭の死骸に遭遇したよ」とか、
またある日には、「マルパイ・メサの方に小さな群れが走っていくのを見た」と言い、
または「いいや、でもジュアン・メイラが二日前に二十頭ほどの新しい死骸を見たと言っていた」と答えた。

この頃になって、ようやくわたしのところに狼用のトラップが届いた。わたしと二人の男でまる一週間かけてそれを組み立てた。
一切手は抜かなかった。われわれは一つ一つが確実に作動するよう全部のトラップを最良の状態にセットしたのである。

トラップが届いた翌日から、わたしはロボの動きを調査した。そしてすぐに、ロボの足跡がトラップからトラップへと続いているのを見つけた。そうして、でロボが夜の間に砂に描いたストーリーのすべてを読み取った。

トラップは注意深く隠ぺいしていたのだが、彼はすぐにそれが罠であることを見抜いた。そして、仲間の動きを制し、注意深くその罠が姿を現すまで周りの砂を足で掻き始めた。鎖や丸太が見えてくると、彼はバネが弾かぬままのトラップを後にし、次のトラップに向かった。そうして、一ダースのトラップが同じようにして暴かれた。

その観察からわたしは、ロボがトラップと疑わしいサインを見つけると、そこに止まって体を横に動かすことを知った。
それでロボをトラップに掛ける新しい方法を思いついた。わたしはトラップをH字になるように仕掛けるようにしたのだ。つまり、足跡の両側にトラップを二列に並べ、それに橋を掛けるように別のトラップを仕掛けるのである。

しかし、舌の根の乾かぬうちにそれが失敗であったことを告げなければならない。と言うのも、ロボは確かに行跡にしたがってやって来て、思っていた通り、並行するトラップの間に入った。そして、H字の橋に当たるトラップの前でそれを嗅ぎつけたのだが、いったいなぜそういうことが起きたのか、わたしには野生を守護するエンジェルがそのとき彼に憑いていたとしか考えられないのだが、ただの一インチも左右に身体を振ることなく、そのまま後ずさりをして難を逃れたのである。
そうして、H字の片側に身を寄せると、後足で土や石を掻き散らしてバネを弾かせてしまった。

このようなことは珍しくもなかった。それで、わたしはやり方をいろいろと変え、予防策を講じてみたけれども、彼がこれに引っ掛かることはなかった。彼の利口さは決して破ることができないようにさえ思えた。

そのようにしてロボは、これまで略奪者としての実績を積み上げてきたわけであるが、とうとう信頼していた仲間の軽はずみな行動により、彼単独では決して陥ることのなかった罠に嵌ってしまうことになった。それさえなければ、彼は決して倒すことのできない英雄として、伝説に名を残すことができたであろうに。

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実は、これまでにも一度か二度、わたしはカランポー一味に何かつけ入る隙があるように感じていた。その行動様式に規範とは相反するものを発見していたのである。たとえば、ロボと思しき大きな足跡に先んじる小さな足跡が残っていることがあった。このことはしばらく、カウボーイの一人が次のような示唆をするまで、わたしには解けないままの謎だったのである。

「今日、俺は奴らを見たんですがね」と、そのとき彼は言ったのである。「それで、そこの横紙破りのボスをボスとも思わぬような足跡ですが、これはブランカのものであること分かりました」
それで、ようやくわたしにも光明が射してきたのである。わたしは彼に応えた。「それじゃ、ブランカはメスというわけだな。もしもそいつがオスだったら、ロボはその場で殺してしまうだろうからな」

このことは、わたしをある計画へと導いた。わたしは牝牛を一頭殺し、一つ二つ、幾分雑なトラップをその死骸近くに仕掛けた。そして、何の役にも立たない、たいして狼の関心も引かないであろう頭を切り離すと、少し胴体から離れたところに置いて、その周りに六つ強力なトラップをセットした。決して手の臭いが付かぬよう、そして決して罠が暴かれぬよう念を入れて隠ぺいしたのである。

その作業の間、わたしは両手、ブーツ、そしてすべての道具を新鮮な血に浸し、最後にはその首から出る血を付近の土に撒き散らした。トラップを埋めた後、コヨーテの毛皮で辺りを掃き払った。そして、そのコヨーテの足を使って、トラップの上にいくつもの足跡も付けた。

牛の首は、叢とそれとの間に僅かな隙間しかないようにセットし、その間隙には持てる中での最高のトラップを二つ埋めた。そして、それと首とを固く繋いだ。

狼というものは、嗅ぎ付けた死骸には、たとえ今満腹であろうと必ず近づいて確かめるという習性を持っている。彼らのもつこの習性がこの策略の成否を握っており、わたしはこれに大いに期待をかけたのである。

わたしは、ロボが胴体に仕掛けた罠に引っかかることはないであろうし、また手下が引っかからないよう近づけないであろうと踏んでいた。しかし首の方には、それが如何にも素っ気なく放り出したように見えるだけに期待をかけていた。

翌朝、わたしは結果を調べるべく出立した。そして、そこには・・・、ああ、なんと嬉しいことか! そこには、たくさんの足跡が残っており、さらに牛の頭がトラップとともに消えてなくなっていたのである。

予想していた通り、ロボは牛の死骸には仲間を近づけていなかったが、一つだけ、小さな足跡が首のあった場所に残っており、その足跡の持ち主がトラップに引っかかったことは明らかであった。

われわれは、その跡を追った。そして一マイル(1・6キロメートル)と行かないうちに、その不運な狼がブランカであることを確認した。彼女は、五十ポンド(22キログラム)ほどもある牛の頭を引きずったまま駆けていたのだが、わたしの連れが徒歩で追いかけようとすると、さらにスピードを上げて遠ざかろうとした。しかしわれわれは、彼女が岩場まで来たところで追いついた。牛の角が邪魔になって彼女は思うように進めなくなったのだ。

彼女は、これまでにわたしが目にした中で最も美しい狼であった。その毛艶は素晴らしく、ほとんど白と言ってもよかった。
彼女は反撃に出ようとした。そして仲間の支援を求めて谷に響き渡る長く尾を引く叫びを上げた。それに応えて、メサの奥深くからロボの深い咆哮が聞こえた。

しかし、彼女の上げた叫びは生涯で最後のものとなった。すでにわれわれは彼女のすぐ間近に来ていて、彼女にはもはや戦う以外の力も息も残されていなかったのである。

結果的に悲劇は避けられなかった。後になってからはもう少し別のやり方があったようにも思えたが、そのときには、それが最良の方法だったのである。

われわれは二人して、呪われた彼女の首めがけ投げ縄を打った。そうして、彼女の口から血が迸るまで、お互いの馬を別々の方向に進めた。彼女の眼がぎらつき、その四肢は強張ったかと思うと突然に萎えた。