奔訳 白牙17

2016/06/08 13:54

今や休息したり眠っている狼がほとんでである。中には満腹でいがみ合ったり喧嘩を始めたりしている若い雄狼たちもいて、これが数日、群れがいくつかに分裂していくまで続いた。飢饉は去ったのである。狼たちは今、獲物が豊富な地域におり、相変わらず群れで狩りしていたが、ただやり方が少し慎重になって、大きな牝鹿を切り離したり、あるいは途中で出会った小さな群れから老いて弱った雄鹿を選んで倒した。

しかし、とうとうこの食糧に事欠かぬ土地にも狼たちが二つに分かれ、別々の方向へと離れていく日が訪れた。雌狼を中に若いリーダーがその左に、そして片目の老狼がその右に並び、半分になった群れを率いてマッケンジー川へと下り、東の湖沼地帯へと進んで行った。毎日のようにこの残党は数を減らしていった。二頭ずつ、雄と雌の組になって、狼たちは散らばっていった。ときに、一頭だけの雄狼が恋敵から激しい牙を浴び弾き出されることもあった。そうして最後に四頭だけが残った。雌狼と若いリーダー、そして片目、野心旺盛な三歳である。

雌狼は、今や恐ろしいほど気が短くなっていた。彼女を追う三頭はみながみな彼女の牙による傷を負っていた。しかし、彼らはその仕返しをすることもなければ防戦することもなかった。彼らはその肩を彼女の猛烈な牙の洗礼に曝しつつ、尻尾を振りながら彼女の怒りを宥めるべく小股で歩み寄るのであった。しかし彼女に対してはそのように柔和に接する一方、お互いには敵意をむき出しにしあった。三歳の若い狼がもっともその凶暴さを露わにしていた。彼は片目の老いた狼の失われた視野の方からその耳をリボンのように切り裂いた。灰色の年老いた狼は片目だけの視野にもかかわらず若い狼に立ち向かい、見える側の目だけで長い経験に基づく知恵を発揮した。失われた目と鼻の傷痕は彼の経験を物語る証拠であった。彼は数多の戦いを、その瞬間、瞬間、臨機応変に対処することで生きながらえてきたのである。

闘いはフェアープレイに始まったが、しかしフェアープレイには終わらなかった。何が起こるかはまさに予期不能であり、もう一頭の狼が老狼の加勢につき、老いたリーダーと若きリーダーの共闘により野心むき出しの三歳を駆逐しようとしたのである。三歳の狼は両サイドをかつての同志たちによる容赦ない牙に挟まれた。お互いに狩りをし、獲物を倒し、飢餓に苦しめられた日々は記憶の遙か向こうに忘れ去られた。それらはすでに過去のものだったのである。今目前の愛に関わることは、常に獲物を得ることよりも厳粛で残酷な行為なのであった。

その間、雌狼は、すべての原因である彼女は、満足そうに腰を降ろして見物を決め込んでいた。彼女は楽しそうでさえあった。今こそが彼女にとって至高のときであり、雄たちが自分をめぐって互いにたてがみを逆立て、牙と牙をぶつけあい、あるいは互いの肉を切り裂きあう、こんな日など滅多にあるものではなく、今こそがまさに、これらすべてを我が手にしているときなのであった。