スプリングフィールドの狐6

2014/11/23 10:43

しかしまだ鶏の消失は続いていた。叔父の怒りはいよいよ激しくなってきた。とうとう彼は、自分自身で戦う決心を固めると、飼い犬はそんなものを口にしないであろうと踏んで毒餌の鶏の頭を森のあちこちに撒き散らした。
そして、わたしが毎日森の中でやっていることに対し軽蔑的な言辞を浴びせては銃を手に取り二匹の犬を伴に、狐どもに目にものみせてくれるとばかりに毎夕外へと出かけて行くのだった。

ビックスは毒餌をよく知っていたので、そんなものは馬鹿にして目をくれないばかりか、逆にそれをうまく利用さえした。何をやったかというと、鶏の頭を一つ仇敵であるスカンクの巣穴に放り込んだのである。それ以来、スカンクの姿を森で見かけることはなくなった。

ビックスは、かつてはスカーフェースが犬を巧みに巣から遠くに離れさせてくれていたのだが、彼なき今はそういった負担のすべてをひとりで負わねばならなかった。
巣穴へと続く自分の臭跡すべてを消す余裕もなく、天敵が巣穴に近づいたときに彼らを遠くに引き離すこともできなかったのである。

彼女たちの命運は尽きかけていた。レンジャーはま新しい臭跡を追い、フォックステリアのスポットは狐一家が家にいることを告げると、最善を尽くすべく跡を追った。

たった今、すべての秘密が白日の下に曝され、一家全員がまさに滅亡の淵にあった。
わたしたちや犬が取り囲む中、雇い人の男が一人でつるはしとシャベルを使って巣穴を掘り始めた。ビックスはすぐに近くに姿を現すと、犬たちを川までおびき寄せ、そこでまた彼らを巻こうとした。
怯えた動物のようにビックスは数百ヤードばかり走った後、犬たちを十分に巻くほどには臭跡を消せなかったことを知りながら巣の方に戻ってきた。
犬たちは少し迷わせられたものの、間もなくビックスの後を追うように戻ってくると、彼女が仔狐という財宝からわたしたちを遠ざけようにも遠ざけることが出来ず、絶望に駆られて辺りをうろうろしている姿を発見した。

その間にも雇人のアイルランド人はつるはしとシャベルを使って精力的かつ効率的に土を掘り出していた。黄色い、砂利の混じった砂が両側にどんどん積み上げられ、そしてまたシャベルの肩が土の表面にまで踏み沈められていく。そうして一時間ほどが過ぎ、活気づいた犬たちが近くでやきもきしていたビックスの後を追って行ったとき雇人が叫んだ。

「ほら、出てきましたぜ。こんちきしょうめが!」

そこは巣穴の一番奥で、四匹の毛糸のような毛に包まれたチビどもは、そこまで追い詰められ恐怖に戦いていたのである。

もしもわたしが制止しなければ、シャベルの一撃と興奮したテリアの攻撃で四匹とも死んでいたであろう。しかし、辛うじて一匹だけ救うことができた。わたしは、その四番目の一番小さな仔狐の尻尾を掴んで引っ張り上げ興奮した犬の牙に掛からぬよう高く差し上げたのである。

この仔は一度だけ短く鳴いたのだが、それを聞いた哀れな母狐は近くまで来て叫び声を上げると、円を描いて廻りはじめた。その距離はあまりに近く、たまたま犬たちが間に割って入ろうとするので撃たれはしなかったのだが、彼女はその犬たちをまた実りのない追跡に導こうとした。

助かったチビは袋の中に放り込まれ、その中でおとなしくしていた。彼の不運な兄弟たちは育児室に戻され、シャベルでほんの数回土を掛けただけで土に埋もれた。

わたしたちは、少なからず罪の意識を感じながら家路についたのだが、チビすけはすぐにチェーンを付けて庭に放された。誰も彼を生かしておく理由を知らなかったが、殺してしまおうなどという考えも思い浮かばなかったのである。

チビは本当に小さく、羊と狐の混血のように見えた。毛糸に包まれた顔や身体つきは奇妙なことに無垢な羊のように見えるのだが、黄色いぎらぎらした眼をよく見れば、羊とは似ても似つかぬ狡賢さや残酷さが宿っているようにも思えた。

チビは誰かが傍にいる間はじっと与えられた箱の中にしゃがみ込んで小さくなっていたが、誰もいなくなると、ようやく箱から外を見ようと出てきた。

わたしの部屋の窓はバスウッドの木に開いた穴と同様に観察には打ってつけだったのである。
チビがよく知っているはずのたくさんの種類の鶏たちが同じ庭にいた。その日の夕方になって、その鶏たちが虜囚の周りで餌を啄んでいたのだが、ふいにチェーンの鳴る音がしたかと思うと、チビが自分のすぐそばまで来た鶏に飛びかかろうとしていた。しかし、チェーンが邪魔をしてチビはすんでのところで棒立ちになってしまった。彼はすごすごと箱に引っ込んでしまったが、その後も何度か同じようなことを繰り返した。しかしチェーンの長さ内で飛びつくことを覚え、二度と酷い棒立ちになることはなかった。

夜になると、チビは落ち着かなくなって箱から出てきては頻りに鳴き声をあげるのだが、少しでも物音がするとまたすぐに箱の中に引っ込んでしまった。そしてチェーンを引っ張ったり両足でそれを押さえたまま腹立ちまぎれに噛みついたりした。

突然、彼は何かに耳を欹てたかと思うと、小さな黒っぽい鼻の先を上に向けて、吐き出すように短い震え声を上げた。二度か三度、これを繰り返すと、しばらくはチェーンの音と走り回る音が聞こえるのみとなった。しばらくして彼に応える声が返ってきた。遠くからのヤッユーという親狐の声であった。
数分後、積み上げた木の束の上に黒い物影が映った。すると、箱の中にこそこそ入ろうとしていたチビはすぐに身を翻し、嬉しさを全身で表しながら母親を出迎えようとした。稲妻のような素早さで母狐はチビを銜えるとやって来た方に帰ろうとする。しかし、伸びきったチェーンは無情にもチビを親の口から引き離してしまった。そして母狐の方は、開け放たれた窓を恐れたのか木の束を越えて逃げてしまった。