スプリングフィールドの狐 ビックス2

2014/11/15 19:38

近くに狐が一家を構えていることはよく知られていたのだが、まさかこれほど近くであるとは誰も思わなかった。

この父親の狐は眼の辺りから耳の後ろまで傷があるためスカーフェースと呼ばれていたのだが、おそらくこれはウサギ狩りに夢中になっていて鉄条網に気が付かなかったためのもので、傷が癒えた後もそこだけ白い毛となっていたため、よく目立ったのである。

その年の冬に入る少し前、わたしは彼と一度遭遇していて、その利口さをよく知っていた。

雪が降った後、狩りに出たわたしは、開けた土地を横切って廃屋となった古い粉ひき小屋の裏にある藪の窪地まで歩いていた。

頭が窪地から辺りを見渡せるほど高くなったとき、わたしの歩いてきたコースを横切るように狐が一匹、反対側の遠くの方を速足で駆けているのを見つけた。
わたしは即座に動きを止め、狐がそのまま窪みに入って姿を見えなくしてしまうまで、わたしが彼に気が付いていることを気取られぬよう、頭をすごめたり首を回したりしないよう、そのままじっとしていた。

彼が見えなくなると、すぐさまわたしは待ち伏せをするべく向こう側の次に彼が姿を現すであろう辺りまで走っていって、かなりの時間そこで待っていたのだが、狐は一向に現れない。

注意深く辺りを見渡してみると、彼が消えていった雪の茂みから狐の新しい足跡が点々とついていて、それをずっと目で追っていくと、なんとスカーフェースの奴は、わたしの背後の相当に離れた場所にしゃがみこみ、したり顔といおうか、どことなく楽し気な、顔でにんまり笑っていたのである。

足跡から考えても、彼のやったことは明らかであった。あのとき彼は、わたしが彼を見ていることに気が付いていたのである。
しかし彼は、腕の良い狩人がよくやるように、気づいていながら気が付かぬ振りをしていた。つまり、自分の姿が自然に影に隠れてしまうまでは何食わぬ顔で普通に歩いて行き、姿が見えなくなるや否や、全速力でわたしの背中側に回り込んだ。
そして、自分の仕掛けた罠をいつまでも見張り続けているわたしを見て喜んでいたのである。

春先にもわたしは、スカーフェースの狡賢さを味わわせられていた。
そのときわたしは、友達と二人、草が高く生い茂った道を歩いていた。わたしたちは、灰色や茶色をした大きな石が点在する十メートルほどの小山を通り過ぎた。そのとき、それを間近にして友がこう言ったのである。
「あの三番目の石だが、狐が円くなって寝ているように見えないか」

しかし、わたしにはそうは見えなかった。それでわたしたちはそのままそこを通り過ぎた。何メートルか過ぎたとき、一陣の風がこの石の上を吹き渡り毛を逆立てた。

友が言った。「間違いなくあれは狐だよ。円くなって寝ているんだ」

「それが本当かどうか試してみよう」とわたしは応えて、後ろを向くとすぐに道から一歩脇に出た。すると、スカーフェースの奴は飛び上がるや否や急いで駆け出した。草の中をまるで火が走るみたいで、その後には黒くて広い帯が残った。彼は走りに走って焼け焦げずに残った枯草に見えるくらい先まで行った。そこでしばらく腰を降ろしたが、まもなく姿が見えなくなってしまった。

彼は、石になってずっとわたしたちに目を光らせていたのである。そして、わたしたちが道からはみ出ない限りは動かずにいたというわけだ。
これのびっくりする点は、彼が茶色い石や枯草によく似ていたということよりも、彼がそのことをよく弁え、それから便宜を得ようとしていたことである。

このようなことから、わたしたちは、家の森を住処にし家の庭先を食糧庫にしているのがスカーフェースとその妻ビックスであることを知った。

翌朝、松林の中を探索してみると、ここ数か月の間に土が掘り起こされ大きな盛り上がりになっているのを見つけた。これは、どこかに穴が掘られている証拠に違いなかったが、そのような穴はどこにも見当たらない。
ただし、よく知られているように、本当に賢い狐は、新しく巣穴を掘るときに、はじめに開けた穴からどんどん土を掻き出していって、そこからかなり離れた向こうの茂みにまでトンネルを貫通させる。それからはじめに掘った穴は、いかにも出入口のようにみせかけて塞いでしまう。本当の出入り口は茂みの中の隠し扉なのである。

それでしばらくかけて小山の反対側を探索してみたら、やはりそこに出入り口があり、その中に仔狐たちがいるという証拠を見つけた。

茂みになった丘の斜面を上がっていったところに中ががらんどうになった大きなバスウッドの木がある。この木は大きく傾いでいて、下の方に大きな穴が開いており、上にも小さな穴が開いている。

子供のころ、わたしたちはこの木を使ってスイスロビンソンファミリーごっこをして遊んだものだった。木の空ろの壁には刻みを入れて、上ったり下りたりし易くしていた。それが今、とても便利な役割を果たすこととなった。翌日、わたしは日が昇って暖かくなると、そこへ彼らの観察に出かけた。

木の空ろを上って屋根から見下ろせば、地下室に住む一風変わった家族のことがよく観察できるのである。

家族には4匹の仔狐がいて、面白いことにみな仔羊のようだった。毛糸のような柔らかな毛に包まれており、脚は長くて太く、体つきは無邪気そのものだ。しかしよく見れば、幅広の、鼻の尖った、眼つきの鋭い顔からは、無邪気さよりも狡賢い古狐の姿が浮かび上がってくる。