スプリングフィールドの狐ビックス4

2014/11/21 19:06


この手法によって鼠の位置を把握し、まずは押さえつける。捕まえたのが鼠であることを確認するのはその後のことだ。ビックスはすぐに飛び跳ね、枯れ草の中で断末魔の叫びを上げる鼠を一匹捕まえた。

鼠はすぐにビックスの胃袋に収まってしまったが、四匹のぶきっちょどもは、母親がしたことを真似ようとした。そして、ついに長子らしき一匹が生まれて初めての狩りを成功させ、興奮に震えながら、そして本能に仕組まれた自分自身のもつ獰猛さに驚きながら、その真珠のような乳歯で鼠の肉を切り裂いた。

家庭教育の別の事例が赤栗鼠であった。この栗鼠は騒がしい下種な生き物で、狐の巣の近くに住み、安全な木の枝から機会ある度に口汚く狐たちを罵って暮らしていた。
仔狐たちは、彼が木から木へその隙間を縫うように素早く移動したり、あるいは木の根元などすぐに退避できる安全な場所から自分たちを早口で罵るたびに何とかして捕まえてやろうと無駄に努力を積み重ねていた。
しかし、親狐はなかなかの博識で、赤栗鼠の習性をよく心得ていたので、しかるべき時が来るまでは手の内を見せないようにしていた。
その日、ビッグスは仔狐たちを隠すと赤栗鼠の通り道に腹ばいになった。すると、煩くて心の卑しいこの栗鼠が木の上にやってきて、例によって口やかましく小言を並べ立てはじめた。しかし、彼女は毛ほども動こうとはしない。栗鼠は少し枝を降りて、狐の頭越しに何かぺちゃぺちゃしゃべり始めた。

「このケダモノめが、このケダモノめが」

しかしビックスは死んだように動かない。これには誰しも戸惑いを覚えてしまう。栗鼠も幹を降りて、狐の様子を伺いながら草はらを駆け、他の木の枝に移動してからもまた小言を並べ始めた。

「このケダモノめが、この役立たずのケダモノめが、キーキー」

しかし、ビックスは草の上に腹ばいになったままぴくりともしない。これは、赤栗鼠をじれったくさせるに十分だった。栗鼠は生まれつき好奇心旺盛で冒険的な性向があるので、再び地上に降りると先ほどよりも狐に近いところを駆けてまた最初の木に登った。しかしビックスは相変わらず死んだように動かない。「間違いなく彼女は死んでいる」
仔狐たちさえ本当に母親が死んでしまったのではないかと思い始めた。

赤栗鼠の心中では、少し狂気を帯びた無鉄砲な好奇心が頭をもたげはじめていた。彼は木の皮の破片をビックスの上に落とし、彼の知る限りの悪態をつきまくったのだが、一向に狐からは生の兆候が得られない。
それで彼はもう二三度、木と木の間のダッシュを繰り返した。待ち構えているビックスとの距離がほんの数メートルになったとき、彼女は一瞬のバネで栗鼠を押さえつけた。

そしてチビたちがその骨までをしゃぶり尽くした。

これらは彼らの教育の基礎がどのようになされたかという事例である。この後、彼らが成長し強くなるにつれ、さらに遠出して追跡や様々な生き物の臭いについて学習することになるのである。

獲物の種類に応じた狩りというのは、どんな動物であろうと自分自身が生き残るためにある種の力を持っており、同時に他者が生き残るためのある種の弱さも持っている、ということであり、このことを彼らは教えられる。
あの赤栗鼠の弱さというのは馬鹿げた好奇心であった。狐が木に登れないことと同じくらいの欠点である。そして、仔狐たちへの訓練は、他者の弱みを自らの利益にするということであり、自らの弱点を巧みな演技により補うということであった。

仔狐たちは両親から狐世界の公理を学んだ。どのように、というのは口にはし難い。しかし、彼らがこれを両親と一緒に身に着けたということは明らかである。

ここに狐たちがわたしに教えてくれたことを列挙してみよう。もちろんそれは言葉によってではない。

決して自らの通り道で寝るな。

お前さんの鼻は何のために目よりも前に突き出ているのだ。まず鼻を信じろ。

愚か者は風上を走る。

川の流れは病気を癒す。

隠れていたいなら絶対に開けたところには出るな。

小利口な奴が臭跡を曲げてもまっすぐな道を離れるな。

変に感じるということは、それが敵意を隠しているからだ。

砂と水は臭いを焼き尽くす。

兎のいる森で鼠を狩ろうとするな。また鶏のいる庭で兎を狩るな。

草の中に入るな。

次のようなことは、すでにチビどもの心身に浸みついていた。たとえば、臭わないものを追うな、という智慧は彼らにもよく分かっていて、それはすなわち、風向きが自分たちに不利に働いているということなのである。

一通りチビどもは自分たちの住む森の中の鳥や獣について学ぶと、両親とともに巣から少し離れた場所で他の動物たちについて学習をするようになった。彼らは動くものすべての臭いを知っているつもりになりかかっていた。しかしある晩、母狐は彼らを連れてフィールドに出かけたのだが、その地面の上には奇妙な黒くて平たいものがいた。彼女はチビどもにその臭いを嗅がせるために近寄らせた。しかし、その息の一吸いでチビどもは総毛立ち、何故かは分からなかったが身体が震えた。どうやらそれは、彼らの血を通して伝わる震えであり、また本能に根差した嫌悪と恐怖からくるものであった。

彼女はチビどもの効果を確認するとこう教えた。
「これが人間の臭いよ」