スプリングフィールドの狐ビックス3

2014/11/20 21:08


仔狐たちは遊んだり、日向ぼっこをしたり、取っ組み合いをしたりしていたのだが、何か微かな物音に驚いたようで穴の中に引っ込んでしまった。しかしそれは、危険な音ではなく、母狐がまたもう一羽、わたしが知る限りでは17羽目の鶏を銜えて藪から現れただけだった。
母狐が低い声を上げると、仔狐たちが縺れあうようにして穴の中から出てきた。その後に起きたことは、わたしにはとてもチャーミングに思えたのだが、わたしの叔父の見解はおそらくまったく違ったものになったであろう。

仔狐たちは鶏に殺到し、一羽を巡って争いが始まった。その間も母狐は、鋭い眼を辺りに配って侵入者を警戒していたが、その顔には慈しみと喜びが伺えた。
彼女の表情には、ほんとうに見るだけの価値があった。一目見ただけでは、それは単なる微笑だったが、本来の野性や狡賢さは失われておらず、また酷薄さや用心深さが欠けているわけでもなかった。しかしそこには、間違えようもない母親としての誇りと愛が湛えられていたのである。

バスウッドの根元は藪の中に隠れており、小山のさらに低い位置に彼らの巣があったので、わたしは狐たちを脅かすことなくいつでもここにやって来れた。

そうして何日もわたしはここに足を運び、仔狐たちの学習ぶりを目のあたりにすることができた。彼らは些細な物音を聞いたり、あるいは他の脅威を見つけたりするたびに避難所に逃げ込むということを繰り返した。

ある種の動物の母親は、溢れんばかりの愛を他の動物に分け与えることさえある。しかし、この狐の母はそうではなさそうだった。彼女の仔狐に対する愛情は最も洗練された残酷さという形をとったのである。
どういうことかと言えば、彼女がしばしば巣に持ち帰る鼠や鳥といった獲物は、悪魔のように計算された生殺しの状態で仔狐たちに与えられ、仔狐たちはその獲物を弄り殺しにする方法を学ぶのである。

ところで、丘の上の果樹園にはマーモセットが一匹で住んでいた。彼は特別男前でも面白くもなかったが、それなりに身の処し方を知ってはいた。
彼は、古い松の切り株の根と根の間に穴を掘って住処にしていて、さすがに狐もここを掘り出して彼を捕えることはできない。
それにそもそもそのようなきつい仕事は狐の生き方に反した。智慧は肉体労働に優る、が彼らの信条だったのである。

マーモセットは毎朝切り株の上で日光浴するのを日課にしていた。そんなとき、たまたま近くに狐を見かけると、すぐに切り株を降りて巣穴のところで様子を伺い、もしも狐が非常に近くまで来たときには穴の中に引っ込んでしまう。そして、危険が遠のくまでそのまま中でじっと待っているのである。

ある朝、ビックスとその伴侶であるスカーフェースは、そろそろ仔狐たちにマーモセットのような少しばかり大物を食させ、さらにはこれを使って狩りの実践教育ができれば申し分ないと決断したのであろう。
そういうわけで、彼らは夫婦して切り株の上のマーモセットに気づかれぬよう果樹園の柵まで近づいた。
そこからはスカーフェースだけが果樹園に入って、そのまま真っ直ぐ切り株のいくらか先をを横切るように歩いていったが、彼を警戒して見ているマーモセットに自分の方を見ていると思われぬよう決して切り株の方は見なかった。

スカーフェースが最初に視界に入った時、マーモセットは静かに巣穴の戸口まで降りて狐が通り過ぎるのを待っていたが、ここは用心して巣穴の中にもぐりこむのが得策とすぐ中に引っ込んでしまった。

しかし、これこそがまさに狐の思うつぼだった。陰に隠れていたビックスは素早く切り株の後ろまで走り寄って、その陰に隠れた。
スカーフェースの方は、そのまま後ろを振り返らず、ゆっくりと歩き続けている。
マーモセットは、そもそも脅威を感じていたわけではないので、しばらくすると根の間からひょっこり頭を出して辺りを見渡しはじめた。やはり、例の狐はだんだんと遠ざかっている。彼はその距離に反比例するようにだんだん大胆になってきて、穴から全身を外に出すと、遥か先まで見晴るかすべく切り株の上に飛び乗った。その瞬間を待ち構えていたビックスは一跳びでマーモセットを捕まえると、彼が気を失うまで振り回した。
その様子を横目で見ていたスカーフェースは、急いでビックスのところに戻ってきた。だが、ビックスがマーモセットを口にがっしり銜えて巣穴に戻ろうとしているのを見ると、自分の役割が終了したことを悟った。

獲物が少しは抵抗できるよう、ビックスは注意深くマーモセットを生かしたまま口に銜えて巣穴に戻ってくると、低い声で一声フーと鳴いた。すると、子狐たちが学校の終わった小学生のように飛び出してきた。
彼女が傷ついた獲物を仔狐たちの前に放り出すと、まるで四つの怒った火の玉みたいに群がり、小さな唸り声を上げながら、小さな顎に全力を込めて咬みつくのだった。しかし、マーモセットの方も必死で彼らを薙ぎ払い茂みの方に逃れようとする。
チビ狐たちは執拗な犬の群れのように彼に襲い掛かり、尾や後足に食いついて巣の方に引き摺り戻そうとするのだが、なかなか思うようにはいかない。
その様子を見ていたビックスはほんの二、三回跳ねただけでマーモセットを捕まえると、チビどもに食いつかせるために再び元の広い場所に戻した。
何度も何度もこの荒っぽい所業は繰り返されたが、チビの一匹が酷く噛まれて痛みに叫び声を上げたのを合図に、ビックスがマーモセットの悲劇を終わりにした。彼は直ぐにチビどもに供されてしまった。

彼らの巣からさして遠くないところに丈の高い草っ原があって、大きな穴が開いている。そこはたくさんの地鼠たちの遊び場になっていた。
チビたちの最初のフィールドトレーニングに少しばかり離れたここが選ばれた。チビどもは、ここで初めて鼠狩りという一番易しい狩りを学ぶのだ。
この教育の主要な点は、仔狐たちに深く根差した本能を頼りにまず親が見本をやってみせることである。両親はまた、一つ二つサインをチビたちに示してみせる。動かずによく見ろ、あるいは、ここに来て、わたしのするとおりにやってみろ、とかがそれである。

そういうわけで、その穴を巡る楽しい催しがある風のない夕方から始められることとなった。狐の両親は草の中に仔狐たちを静かに待機させた。微かな鼠たちの鳴き声が狩りの始まりを告げた。ビックスは、視界を確保するために出来るだけ高くつま先立ちになって草の中を歩く。
鼠たちの遁走は草の揺れとなって現れ、鼠たちの所在を知る唯一の手掛かりとなった。これこそが鼠を捕まえるのに風のない日を選ぶ理由だったのである。