奔訳 白牙30

2017/03/11 21:59

そして遂に、灰色の仔に、これまで壁の入口に現れたり消えたり、あるいは腹這いになって寝ていた父親の姿が二度と見えなくなる日がやってきた。それは、比較的緩やかな二度目の飢餓のときであった。雌狼はなぜ片目が帰ってこないのか知っていたが、それを灰色の仔に伝えるすべを持たなかった。
彼女自身が狩に出て、二又になった道を山猫の住む左に進み、片目がその日たどった跡を追った。そして、とうとう片目を、いや、その遺骸を見つけた。激しい闘いの跡が残されていて、勝利を得た山猫が自分の巣へ帰って行ったことが分かった。そこを引き上げる前に雌狼は巣の在り処を見つけ出し、中に山猫がいることも知っていたが、敢えて中に入る危険を冒すことはしなかった。

そしてこの後、雌狼は左道での狩を避けた。山猫の巣には小さな仔猫たちが何匹もおり、こんなときの山猫の気性がどれほど荒く、また怖ろしく手強い相手であることを彼女はよく知っていたからである。たとえば、半ダースほどの狼の群れで吠えたて威嚇しながら木に追い詰めることはできても、たった一匹で山猫に対峙するのはまったく別問題であり、それが腹を空かせた仔を持つ母親であればなおさらであった。

しかし、野性は野性であり、母性は母性である。野性であろうとなかろうと命を賭して守らねばならないものがあり、雌狼にも灰色の仔のために敢えて左の道を行き、岩の中の巣に、そして山猫の激しい怒りに対面しなければならない日が迫っていた。