The eagle has landed(2)

2010/05/02 21:18


鷲は舞い降りたの2回目を書く気になった。
わたしは、あるときまで、この小説を本当に最高傑作として信奉していた。しかし、そのあるときをもって、突如としてヒギンズともども嫌になった。
今、手元にあるペーパーバックの原書のページは黄ばみ、表紙も背のところから半ば切れかかっている。そのくらい、この本はいつも手元にあった。
その日、わたしはRivertyという変な綴りのインド人が経営する飲み屋で一杯飲っていた。そこには英語のペーパーバックが一杯並んでいたので、わたしが「The eagle has landed」の話に水を向けると
「あれはいい本だ」とインド人のマスターが褒めた。
「しかし、鷲は舞い上がったの方はどうかね」というような話をした。
わたしは、わけがわからず、??? となった。
「なんですか、その The eagle has flown とは?」
「なんだ、知らないのか」
というようなことで、後にこれを読んでみると・・・。
この辺の事情は、おそらくヒギンズが好きで両方とも読んだ人にはよく分かってもらえるに違いない。

さて前回、ゲシュタポ長官であるヒムラーがクルト・シュタイナーを「ロマンティック・フール」と呼んだことを書いた。
なぜ、彼がそう呼ばれるか? 実は、彼はロシア戦線で武功を立て、部下と共に列車で本国へ移動中、ワルシャワで思いもかけぬ災難に見舞われるのである。
それについては、また後で書くことにするが、このために、彼ら、つまりシュタイナーと彼の部下たちは懲罰部隊としてチャンネル・アイランドのオーデニーに送られる。そこで彼らに与えられた任務は、メカジキ作戦と呼ばれるスーサイドミッションであった。

スタイナーたちは、魚雷に跨り、凍えるような海水の中、ひたすら敵連合軍の艦船が近づくのを待つ。そして、オーダニーの深い霧の中、レーダーによる情報と一瞬の霧の晴れ間を頼りに、突入を試みるのである。
敵艦の手前50mほどまで近づくいてから魚雷を離れ、後はレスキューの助けを待つという特攻作戦である。

ちょうどそのころ、ラードル大佐は、部下のホッファーとともにチャーチル拉致の実行可能性を探っていた。
実は、ラードルたちにはチャーチルが休暇で訪れる予定のスタドリー・コンスタブルに住む女スパイから情報がもたらされていたのである。
この女の名はジョアナ・グレイというのだが、実は彼女、イギリス人ではない。南アフリカにあるオレンジ自由国(オラニエ自由国)の出身、つまりボーア人(オランダ系)であった。
では、なぜ彼女はドイツのスパイになったか。勿論、それは彼女がボーア人であることと無縁ではない。小説の中では詳しく説明されているが、ここでは書かない。要は、彼女はイギリスによって酷い目に合わされ、イギリスを憎んでいたのである。

ところで、ラードルは、カナリス提督の部下であるわけだが、カナリスは醒めた現実主義者であり、端からヒトラーの思い付きによる計画など実行できるとは思ってはいない。ただ、後にヒトラーが万が一にも「あれはどうなった」と思い出したときのために、ラードルに実行可能性研究(feasibility study)をしておくよう命じたのである。
しかし、スタドリー・コンスタブルからのジョアナ・グレイの報告書が事態を急展開させることになるのだ。

ここで、ラードル中佐について少し触れておこう。彼は30歳だが、ロシア戦線で右目と左手を失い、よっていつも黒いアイパッチと手袋をはめていて、10も15も老けて見える。健康状態は非常に悪く、自身も死期が近いのを予感している。
彼がカナリスを裏切る形で作戦を遂行するのはヒムラーの巧みな脅しによるものである。
ヒムラーは、作戦遂行のためにヒトラー直々の指示書を偽造し、ラードルに与える。
金色の鷲の下に鉄十字章が描かれたその紙には、次のような文言が書かれている

わが国におけるすべての指導者、長に告ぐ

ラードル中佐は、わたしの直接の命を受けドイツのために極秘の任務を遂行しようとしている。彼についての責任の一切はわたしにある。すべての市民、軍人はその地位や身分に関わらず、彼を援助し、任務遂行のための要請には応じなければならない。アドルフ・ヒトラー

                       また次回。