奔訳 白牙21

2017/01/03 20:50

第二章

二日間、雌狼と片目はインディアンキャンプの傍をうろつき回った。片目は、連れがキャンプに魅了させらてしまったかのようにいつまでも離れたがらないのを横目に非常に不安で気がかりであった。ところがある朝、空気が切り裂かれるような至近距離からの銃声とともに片目の頭を掠めて銃弾が木の幹にあたって弾けた。もはや躊躇のしようもなく、危険から逃れるべく跳ねるように何マイルも一気に駆け出した。

二頭は、数日の旅でいくらも移動しなかった。雌狼の探索活動が今や危急の感を帯びてきていたからである。彼女は身重になってきており、走るのもやっとという感じであった。一度、ウサギを見つけて捕まえるのに、普段の彼女であれば赤子の手を捻るようなものであったのが、捕まえるどころかへばってしまって肩で大きく息をするという始末であった。片目は彼女のそばに寄って、彼女の首に優しく鼻先を触れようとしたが、いきなり恐ろしい勢いで咬みつかれたので、彼は無様にも後ろにひっくり返らんばかりになってその歯を避けた。彼女の気性はかつてないほど短くなっていたが、片目の方は逆にかつてないほど我慢強く、また気遣いをするようになっていた。

そして、ついに彼女は探していたものを見つけ出した。それは、夏の間にはマッケンジー河に注ぎ込む小さな流れの何マイルか上流にあったものが、今はその上も下も岩肌の底まで白く凍って、その源流から河口までが凍えて死んだ白い流れの固形物になってしまっているのであった。雌狼は、疲れた様子でその流れに沿って小走りに走り、彼女の連れは軽快にその先を走っていたのが、そのとき彼女は、高く乗り出した粘土質の土手を見つけた。彼女はその横を小走りに見て回った。春の嵐に削られたり裂かれたりして、あるいは雪解け水に掘られて、土手の一部は狭い切れ目から洞窟の口につながっている。
彼女は洞窟の口に留まって、壁を注意深く見上げた。それから壁の両側を調べると、柔らかな土の中から突出している巨大な岩の周りを走って一回りした。洞窟まで戻ってくると、彼女は狭い入口に入った。九十センチ足らずを彼女は腹ばいになって進んだが、そこから壁の幅は広がり天上も高くなって直径百八十センチほどの丸い空間が現れた。天井は辛うじて彼女の頭がぶつからない程度であった。乾燥して居心地も良い。彼女はそこを辛抱強く調べ、一方片目の方も、そこに戻ってくるなりすぐ入口に佇み我慢強く彼女のしていることを見ていた。彼女は頭を落とすと、鼻先を地面に突き刺すようにし、それをコンパスの中心に四肢を何度か回転させた。それから疲れたような、ほとんど不満に近い溜息を吐き、身体を丸めて四肢の緊張を解き、頭を入口に向ける格好で横たわった。片目は、目を研ぎ澄まし、耳を立て、彼女に笑いかけていたのだが、彼女の目にも、彼のふさふさした尾が機嫌よく左右に振られているのが見てとれた。彼女の耳も心地よさげにその尖った先を後ろに下げ頭にぴったり着け、一方口元は開いて舌が幸せそうに垂れ下がり、満足と喜びを露わにしている。