それから を読む

代助というのは、おそらく漱石の代人であろう。まさに名は体を表すからである。

その代助が夜眠る時に覚醒と睡眠の間を繋ぐ糸のようなものを究明するために眠られなくなって、そのような愚かな自分の行為に辟易する場面がある。

以下はその抜粋である。

 

"自分の明瞭な意識に訴えて、同時に回顧しやうというのは、ジエームスの云つた通り、暗闇を検査する為に蝋燭を点したり、独楽の吟味する為に独楽を抑へる様なもので、生涯寝られつこない訳になる。と解つているが晩になるとまたはつと思ふ"

おそらく、これは漱石自身の実体験によるものであろう。わたしが面白いと思ったのは、二つの比喩である。これは矛盾、あるいは自己撞着そのものには違いないが、不確定性原理などにも通じる比喩であるから、漱石という人がいかに物理学にも通じていたかが窺い知れると思ったのである。

蝋燭で暗闇を検査する。

独楽を科学するためにそれを手で抑える。

この他にも実に面白い比喩がたくさん出てくる。だから、古典は興味深いのだ。