The eagle has landed(5)

2010/05/24 22:11


「鷲は舞い降りた」が素晴らしいのは、その一人一人の登場人物の個性描写にある。中でもリーアム・デブリンの個性は際立っていると言ってもよい。彼は、アプヴェール(ドイツ情報局)に拾われた元IRA闘士という設定になっているが、大学で講師を勤めるほどのインテリな上、ボクシングや拳銃の腕も超一流である。その上、アイルランド人らしい文学的なセンス?も備えていて、フィリップ・マーローを髣髴とさせる。と言っても、マーローとは一味違う気の利いた文句を吐いてくれるのだ。

映画では、そのリーアムが早速、そのボクシングの腕前を披露するのがスタイナーの部下たち荒くれ者が屯するパブである。しかし、原作はこれとは大分様子が違う。

原作では、彼はゲシュタポと思われていることを十分に承知していながら、ラードルにすべてを任せ、その成り行きを楽しんでいるだけだ。

さて、件のパブにラードルとリーアムがやってきたとき、中は気味の悪いほどシーンとしていた。彼らが中に入ると、部屋のドアが開いた。
「やあ、いらっしゃい。大佐殿」
アルトマン軍曹がそのドアに凭れ、丁重な教養を思わせる声で言った。
ラードルが見ると、胸には1級と2級鉄十字章のほか、冬季従軍章、三回以上の戦傷を意味する銀の戦傷バッジ、そしてその腕には、数多くの落下傘兵たちの中でも最も名誉とされるクレタ袖章がある。これは1941年のクレタ侵攻の先陣をきったことを意味している。

ラードルは、感慨に打たれながらも、厳しい声で彼の名を問う。
しかし、アルトマンは答えず、サロンバーと書かれたそのドアを足で押しのけて、中に入る。
ラードルとリーアムが続いてその部屋に入ると、中には12,3人の兵がいた。皆敵意を露にしている。
ラードルは、彼らの軍服の勲章の多さに驚きを新たにする。鉄十字章を付けぬ者はなく、戦車破壊章や戦傷バッジなどは十把一絡げというほどだった。

「いいか、よく聞け。今すぐ、このような態度を改めねば銃殺の憂き目にあっても仕方がないぞ」
ラードルが穏やかな声で言った。

すると、笑いが起きた。シュトルム軍曹がバーの後ろでルガーを磨きながら、言った。彼は12歳のときから艀人夫をやっていたという荒くれ者だ。
「面白いことをお聞かせしやしょうか、大佐殿。10週間前、俺たちがここで任務とやらを始めたとき、大佐を含め31人いたんでさぁ。それが今はたったの15人ときたもんだ。いろいろと幸運に恵まれてこの有様というわけでさぁ。これ以上、あんたとそのゲシュタポの糞とで何をやらせようと言うんですかい」

リーアムは笑いながら、俺は中立の立場だから巻き添えにしないでくれと言う。

シュトルムは、さらにラードルに向かって暴言を吐く。あんたは、ちょっとばかり腰掛を尻で磨きすぎていたんじゃないですか。だから、俺たち兵隊の気持ちなどちっとも分かっちゃいないんだと。
すると、ラードルは着ていたコートを自由な片手で脱ぎ、軍服を露にする。そこには、騎士十字章をはじめ冬季従軍章などが煌いている。
シュトルムはびっくりして顎を落とす。

ここから、ラードルの反撃が始まる。
「君たちは、その軍服を着ているために自分をドイツ軍人だと勘違いしているようだな」彼は、一人一人の顔を記憶に刻むように見ながら続ける。「わたしが、本当は君たちが何かを教えてやろうか」
ラードルがシュトルムをまるで新兵扱いするかのような教示を垂れるべく、しばし考えているとき、コホンと一つ咳払いが聞こえた。

振り返ると、スタイナーとイルゼ・ノイホフが立っていた。

「私自身もそれ以上の訓示はできないでしょうな、ラードル大佐。願わくば、部下たちの誤解による無礼を許していただきたい。彼らは私に忠義を尽くそうとするあまり、このようなことをしてしまったのです。もう二度とこのような真似はさせません」そう言って、シュタイナーは、その魅力的な笑みを湛えて、右手を差し出す。「クルト・シュタイナーです」

今日はここまで