鎮男33

2012/06/03 23:04


ジローが部屋の隅で真っ青な顔をして立っていた。「おめぇとコンドーとで、川に捨ててこいや」良也がそのジローの顔を面白いものでも見るように笑いながら見て言った。
「……」

「なんや? わいの言うことが気に入らんのんか」その声の調子は、猫なで声のように穏やかで顔の方もまだ笑っていた。
しかし、ジローはその意味するところをよく理解していた。
「い、いえ。すみません」ジローは、震える声でそう答える。
「そんなら、はよ、せぇや」こんどは怒声だった。

コンドーは、すでに女の足首を掴んでいた。ジローが女の後ろ手に縛られた両脇の下に手を突っ込んだ。そして、女の豊かな胸の前で両手を組み合わせる。女は思ったよりはるかに重かった。その裸体を抱き上げるだけでも、小柄なジローにとっては非常な重労働だった。その上に精神的な負担がさらに重く圧し掛かっていた。

「俺はとうとう、殺人の片棒を担がされるはめにまでなってしまった」

その慨嘆は、激しい暴風雨の中、コンドーと二人パンツまでびしょびしょに濡らしながら、冷たい雨に当たって意識を取り戻した女が死に物狂いで暴れまくるのを殴ったり蹴ったりしているときにも、また、スタンドを取り囲むコンクリート塀についた鋼鉄製の扉を開けて裏にまで回りこみ、1,2の3と大声を掛け合いながら3メートル下の川に投げ落とすときにもジローを襲った。しかし、不思議なことに、そのような悲嘆も女が水面をたたく微かな音を耳にしたときから、まるでスイッチが切り替わったかのように晴れ晴れとした歓喜に一転した。

良也の言う通り、明日の朝にはあの女は海にまで流れてしまって、魚の餌になっているに違いない。俺たちが犯人だなどとは永久に分かるはずがないのだ。

良也は、ジローに命じてまぁちゃんにパンツとズボンをはかせ、再びキャディのトランクに詰めこんだ。女の着ていた黒いワンピースを下に敷いて、血で汚れるのを防いだ。