スプリングフィールドの狐ビックス

2014/11/13 15:07

故郷の家では一月以上にわたって鶏がいなくなるという奇妙な事件が続いていた。そのころ、たまたまわたしは夏季休暇で帰省していたので、この謎を解決する務めを果たさねばならなくなった。もっとも謎そのものはあっ気なくもすぐに解決してしまったのだが・・・。

鶏は木の枝のねぐらにつくか、他の寝床で羽を休めるかする前に、一時に一羽丸ごと消え失せていたので、近所のものやこの辺をうろついている動物の仕業でないことは見当がついた。つまり、鶏は、高い止まり木から持っていかれたわけではなかったので、この辺に住むアライグマや梟の所業ではなかったのである。また、食い残こされた鶏もいたので、鼬やスカンク、それにミンクの疑いは晴れた。したがって、残る容疑者はレイナードドアー自由に出入りできるものとなった。

川の向こう岸に大きなエリンウッドの松林があり、そこの茂みを注意深く調べていたわたしは、狐の足跡と家で飼っているプリモスロック種の鶏の羽がいくつも重なって落ちているのを見つけた。
先にある土手に上がって、さらなる物証を探していると、背中に鴉の群れのけたたましい叫びを聞いた。振り返ってみると、藪の中の何かに向かって彼らは急降下しているのだった。よく見てみれば、それは昔から言う、泥棒が泥棒を捕まえる、のまさに一コマであり、藪の中に狐が一匹、何かを口に銜えたまま身じろぎもせずに立っていた。彼はわが家の庭から新たな鶏を盗んで返ってくる途中だったのである。

鴉どもは、自らが泥棒であることを恥じる様子もなく「待て、この盗人め」と叫ぶだけではなく、あわよくばその略奪品を略奪しようと躍起になっているのであった。

すでに彼らの間で奪い合いが起きようとしていた。狐は、巣に戻るには川を渡らねばならず、そうすると、彼は鴉どもの矢面に晒されることになる。
彼は、猛然と駆けだした。はじめは鴉どもをあるいは撒けると思っていたのであろうが、わたしが鴉どもに加勢したわけでもないのに、突然、恐怖に襲われたのか、そこまで銜えてきた鶏を口から離して、林の中に姿をくらましてしまった。

なぜわたしたちが定期的に大きな税を強いられていたかは、一つの事実に収斂する。狐は家族を養っていたのであり、わたしの務めはこの巣を探しだすことへと変わった。

ある日の夕方、わたしは飼い犬のレンジャーを連れて川を渡りエリンデールの森に入った。すぐに犬は円を描き始め、さらにわたしたちは、近くの深い森の谷間から狐の発する短くて鋭い吠え声を聞いた。
レンジャーはまっしぐらにその臭いを追って遠く上の方まで駆けていってしまい、やがてその吠える声も消えた。

それから小一時間ほどして戻ってくるなり、彼はわたしの足元に腹這いになったのだが、その息遣いは荒く、焼きつけるような八月の暑い気候のためもあり身体は熱くなっていた。

そして、それと時を同じくするように、あのときと同じ狐の声で「ヤッ、ヨー」というのがすぐ近くで聞こえると、彼はすぐにまた飛び出していった。

遥か先の暗闇へ、まるで霧笛のように吠えながら、北の方角へまっしぐらであった。彼の吠え声は、大きな「ボゥー、ボゥー」からやがて小さな「オー、オー」へと変わり、そして最後には弱弱しい「オ、オ」となり、そして消えた。
地面に耳を当てて聞いてみても何も音がしなかったことや、レンジャーの甲高い声は一マイル先からも聞こえることから、彼らはおそらく何マイルも先まで行ったに違いなかった。

暗い森の中で待つ間、わたしは、水の滴るような優しい音を聞いた。それは、「ティン、タン、テン、ティン、タ、ティン、テン、トン」というふうに聞こえるのだった。

わたしは、この近くに泉が湧いているなど知らなかったが、こんな暑い夜にもしもそれを見つけることができたなら小躍りしたであろう。
しかし、その音はわたしの耳を樫の梢へと誘い、それでわたしは音の源を見つけることができた。こんな暑苦しい夜にはなんと柔らかな喜びを誘う歌の音であったことか。

「トン タン テン ティン タ ティン ア トン ア タン ア ティン ア タ タ ティン タン タ タ トン ティン ドリンク ア タンク ア ドリンク ア ドランク」

それは「水の滴り」と題するソーウェットアウル(梟;ウェットストーンで鋸の目立てをしているような声で鳴くことから、この名がついた)の調べだったのである。

だが突然、けたたましい息遣いと草の葉のざわめく音がしたかと思うと、レンジャーが帰ってきた。彼は完璧なほどに疲れ果てていた。
だらんと地面近くにまで垂れ下がった舌からは唾が泡になって落ち、脇腹は呼吸のために激しく波打ち、胸、そして両脇から泡の飛沫が落ちている。
一瞬、わたしの手を舐め忠義を示す間だけ荒い呼吸を止めたが、すぐにまたけたたましい息遣いとともに草の中を飛び回ってざわざわと煩い音をたてた。

そのとき、再び例の「ヤップ、ユールルル」という声がほんの一メートルほど先でして、それでようやくわたしの頭にも黎明の光が見えてきた。
わたしたちは、彼らが子育てをしている巣のすぐ近くにいたので、そこからわたしたちを引き離そうと、親狐は囮役を演じていたのである。

そのときは、すでに夜も更けていたし、問題はほぼ解決したように思われたので、わたしたちは家路につくことにした。