超訳 荒野の呼び声 13

2015/10/14 14:16


彼は公然とリーダーシップを脅かした。そして彼は、リーダーに罰せられるべき犬をかばった。もちろんそれには思惑があった。

夜中に激しい降雪があったある日の朝、仮病使いのパイクが起きてこなかった。彼は三十センチほど積もった雪の中にうまく隠れていたのである。フランソワが彼の名を呼んだが無駄だった。スピッツは怒り心頭に達していた。彼は唸り声を上げあちこち臭いを嗅いでまわりながら心当たりの雪を掘るなどしてキャンプ中を探していたのだが、この唸り声を聞いたパイクは寝床の中で縮み上がっていたのである。

しかし、その彼もとうとう掘り出されてしまって、スピッツが罰を与えようと唸りながら襲い掛かった。このとき、バックも同じように唸りながら両者の間に割り込んだのである。余りに予想外のことであり、しかもこれは抜け目なく行われたので、スピッツは驚いて後ろに跳び下がり身構えるよりなかった。パイクは最初ひどく怯えて震えていたのだが、この公然たる反乱に勇を得て失脚させるべきリーダーに飛びかかっていった。もはやバックにとってもフェアプレイなど知ったことではなかった。彼も同じくスピッツに飛びかかった。
しかしフランソワは、この事態にくすくす笑いながらも揺るぎない意志で正義の決断を示した。彼は全力で鞭を唸らせバックを打ったのである。しかしこれでもバックは怯んだ相手から一歩も引こうとしなかったので、鞭の柄で殴られた。バックは後ろに退かされて、スピッツが唸り声を上げながら反抗するパイクに執拗に罰を与えている間、何度も何度も鞭で制されて彼を助けることができなかった。

それでも、ドーソンがだんだんと視界に入りつつあった上からの数日間、バックはスピッツと罪人との間に入って邪魔をし続けた。しかし彼は、フランソワに気付かれぬよう上手にそれをやってのけたので、この密やかな反乱には多くの犬たちが参加を表明した。デイブとソルレックスは関心を示さなかったのだが、残りの犬たちは大いに悪影響を受けたのである。もはやなにもかもがうまく運ばなくなった。そこら中で絶えず諍いや喧嘩が起きた。トラブルは常に進行形をとり、その足元には必ずバックがいた。バックは、自分とスピッツとの間で必ず近いうちに生死を分かつ喧嘩が起きるだろうという心配でフランソワを絶えず悩ませ、他の犬たちの諍いや喧嘩で騒がしくなった夜などバックとスピッツがそれに関わっていないかとの心配で彼を寝袋から跳び出させたことも一度や二度ではなかった。

しかし、その機会が訪れないまま、ある日の陰鬱な昼下がり、彼らはドーソンへ到着した。そこには多くの男たちと数えきれないほどの犬たちがいて、バックは犬たちがみな労働に従事しているのを見た。彼の目には、犬たちが働くのは宿命と映った。一日中、犬たちの長い隊列が大通りを行ったり来たりし、夜にもそのベルの音は鳴り止まなかった。
犬たちは小屋を作るための丸太や薪を金鉱まで運んだり、サンタクララバレイで馬たちがやっていたようなありとあらゆる仕事をやらされたりしているのであった。バックはあちこちで南の地生まれの犬たちとも出会ったが、ほとんどの犬はハスキーであった。そして毎夜、九時、十二時、三時になると、彼らはノクターンを奏でた。それは実に不思議で気味の悪い聖歌であったが、バックもその歌いには喜んで加わった。

オーロラが冷たい光の帯をくねらせ星たちが凍えるようなダンスに飛び跳ねる天井の下、雪の棺衣に覆われ凍結し麻痺した大地の上で合唱されるハスキーたちの歌は、生に対する反抗そのものであり、常に短調の調べに乗って長く尾を引き、悲嘆のように、あるいは半ば嗚咽のようにも聞こえたが、それは生きることの辛さや存在がまさに産みの苦しみそのものであると訴えかけていたのである。
それは、彼らの種と同じだけ古く、歌われる歌すべてが悲歌であったころの若い世界で歌われていた歌の一つだったのである。そしてそれには、数え切れないほど多くの世代の嘆きが込められていたので、バックはそれほどにも怪しく心を掻き乱されたのである。
生きることの痛みに対する彼の嘆きや悲しみは彼の祖先たちの嘆き悲しみだったのであり、寒さや暗さに対する彼の恐れや神秘はまた祖先たちのそれと同じものだったのである。それゆえに、彼は火と屋根に守られた時代の彼方にまで耳を傾け、原初の、咆哮する世代の声を聞こうとしたのだった。