鼻つまみ

電車ではいろんなことが起きる。

浮浪者のような、歳のいったおじさん。

座った席が若いカップルの女性の隣。二人は大学生だろうか。おそらく女性の左側、七人がけの端の席が空いたときにおじさんは滑り込んだのだろう。そうでなければ、反対側に座っているわたしにまでぷーんと臭ってきそうなおじさんの隣にわざわざ座る女性などいやしない。

ぷーんと臭ってきそうな、マスクをしているのでよくはわからないが、日焼けをした黒い顔に白いものが混じった無精髭のおじさんが、更に強烈な臭いを発するガスを発出したのであろう。

「くさっ」と一声発して若い女性がマスクの上から鼻を摘んだ。

するとこのおっさん、

「昔から屁は臭いもんと決まっとるわ」

「場所を考えてよ」気の強そうな女性が応じる。

「昔から出物腫物ところ選ばずいうてのう」

とおっさんが応える。「それにあんた、鼻をつまんでも臭いもんは臭いで。臭いんやったら、息をせんのが一番や。できたら、ずっと息をせんのがええ。あんた、知っとるか、あんたみたいなのを世間では鼻つまみ者言うんや」

「どっちがよ」

すると、カップルの男の方が、

「マミ、もうやめとけ」

と割って入る。

「にいちゃん、あんたはようできとる。きっと将来、わしのような大物になるで」

これにはカップルは何も応えなかったが、マスクの下では苦笑するか舌打ちをしていたに違いない。