再考 優先席について

先日、帰りの電車でアホな女に出くわした。

例によって優先席の前でわたしは席が空かないか立って待っていた。

右端の手すりの側に作業着の爺さんと、真ん中に若い女、左端にこれも若い男という相変わらずの優先席の有り様である。

次の駅で、隣の車両から若い、ヘルプマークのタグをカバンに付けた、冒頭のアホな女が移ってきて左端の男の前に立った。わたしはその隣、真ん中の女の前に立っていた。

若い男はスマホをいじっている。真ん中の女は小説らしきを読んでいる。二人ともヘルプマークが目に入っているのかいないのか、前に立った女には無関心である。

そこで、日頃から優先席については一家言あるわたしが出番とばかりに、

「ヘルプマークの方がおられます。どなたか席を譲っていただけないでしょうか」と声を上げた。

すると、若い男女は、はっとばかりに立ち上がったのだが、すぐに二人とも座り直した。

どうやら、女が席を譲ってもらうのを断ったらしい。

ちょっと驚いたわたしは、その女が次の駅で降りるのだろうと思った。

「よろしいんですか」と女の顔を見たが、女はコクリと頷いただけである。

右端のわたしと同年代くらいのとっつあんは、

「余計な口出しをしやがって」と言わんばかりに時折りわたしを見上げてくる。

次の駅で降りるのだろうと思った女は、次の次の駅でも降りず、次の次の次でも降りなかった。結局わたしは、このアホ女と最後まで電車を共にすることになった。

こんな女となら、わたしは電車どころかベッドを共にするのさえお断りするであろう。


わたしがこの女をアホという理由は、わたしも立ち上がった二人の乗客も気まずい思いをしなければならなかったからである。


権利は行使してこそ意味がある。行使しないならタグはしまっておけばよいし、優先席の前にわざわざ立たなければよい。

行使するなら、ありがとうございます、とひと言述べて嬉しそうに座れば良い。それが席を譲ってくれた人には一番だし、声を掛けたわたしも報われる、というものだ。


思慮に欠ける者のことをアホウという。日頃から、席を譲って貰ったときにはこう言って感謝しよう、頭を下げようと考えている者のことを決してわたしはアホウとは言わない。