甘ちゃん

昨日、お昼頃に電車に乗っていた。優先席のドア側に一人で足を組んで座っていた。そのくらい電車は空いていた。

途中の駅で髪の長い痩せた若い男が乗ってきて、わたしの前を横切った。わたしは眼を閉じてオーディオブックを聞いていたから、そのときには明らかには分からなかったが組んだ右足に足を乗せられたと感じた。しかし、その男は平然とわたしの隣の隣、つまり三席ある優先席の端に座った。

わたしは、こいつがわざと足を乗せたのか、それともたまたま彼の足がわたしの足の上に乗っかってしまったのか、判然としなかったし、痛かったわけでもないので、黙って様子を見ることにした。

しかし、何駅か過ぎて、その男が降車しようとわたしを横切ろうとした時、わたしは彼が組んだわたしの右足に再び足を乗せたのを見逃さなかった。

わたしは即座に立ち上がって、

「おい、こらっ」と大声を上げた。

男は少し驚いて怯んだ様子をみせた。

「おまえ、今わざと俺の足を踏んだだろう」と言うと、

「足を組んでいるからだ」というようなことを言った。

「だから、他人の足を踏んでいいということにはならねぇだろう」

というようなやりとりをして、結局、男はわたしに謝りもせず、

「あほが」とかなんとか、捨て台詞を残して出て行った。


後でよく考えてみたが、どうして俺はヤクザ並みに

「いててて。おい、どうしてくれるんだ。俺は痛めていた足を今の一撃で歩けないほど痛めてしまった。これからお前を傷害の現行犯で常人逮捕する」とかなんとか言って、実際に金をふんだくりはしないものの、そのようなふざけた真似をすれば、こんな時間に電車に乗っているお前は、学生なら100%頭が悪い奴に違いないだろうし、親の脛を齧っているろくでなしに違いない。もしも働いているとしても100%フリーターで1日を食い繋いでいるような男であろう。いずれにしても、その生活がたちまち危機に瀕することになるぞ、ということを学ばせてやることができたであろう、と思うのだ。


しかし、さらに考えを進めると、そもそもこんな男であっても、わたしがヤクザ、あるいはヤクザのような男の雰囲気を醸し出していたなら、決してこのようなKYな行為はしなかったであろう、と思うのである。


つまり、わたしは見た目も、またその言動もこのような男にとっては、単なる甘ちゃんにしか見えなかったのであろう、ということである。


まぁ、以上のような大いなる反省をしたわたしは、今後このようなことがもしもあったとしたら、決してキレたりせず、冷静に法的に、このような奴を追い詰めるであろう。

法的に優位な立場にあるなら、決して感情的になってはいけない。せっかくの優位を帳消しにしてしまうからである。