ヘリについて

2010/09/02 22:06


わたしはこれまでに2回ヘリコプターに乗ったことがある。一度はオーストラリア、二回目はアメリカだった。

アメリカを旅行したときは一人でレンタカーを借り、グランドサークルを回った。グランドキャニオンでは、双発機に乗って大渓谷の遊覧飛行を楽しんだ。このときの同乗者というのがヘルスエンジェルスのような一行で、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔のわたしを前に、みなお揃いの黒い革ジャンという姿でダッダッダッダッと何台ものハーレーを連ねてやってきた。むくつけき男どもの中ににちらほらと女の子も混じっていた。結局、わたしも含めて一ダースの天使たちが同じ飛行機に乗り会わせたのだが、意外にも彼らはみな静かで、互いに肩を寄せ合いながら純真な子供のように壮大な景観に見惚れていた。
初夏の渓谷のところどころにはまだ残雪があり、瑪瑙のような地層の縞模様と深い谷の底のコロラド川の青が美しかった。

そのロスへの帰路でお決まりのようにラスベガスに寄った。砂漠の中をひた走り、空が黄昏はじめた頃になって、ようやく砂漠に咲くあだ花のようにネオンが煌いてきた。それが誘蛾灯のようなラスベガスの町だった。

このカジノの町で20分間のヘリによるナイトクルージングを楽しんだ。このときは、本物のエンジェルのような10歳くらいの女の子とその両親らしき夫婦と一緒だった。この子はまったく人怖じしない性格のようで人懐っこくわたしに話しかけてきた。わたしは、自分が一週間ばかり前にアメリカに着いたばかりの日本人で、英語がへたくそであることなどを話した。
ヘリは空飛ぶ絨毯のように快適だった。20分間などあっという間で、ラスベガスの夜景を堪能する間もなくヘリはスィーベルチェアーのようにその場で180度回転すると元の発着場へと引き返した。

本題に入ると、ヘリコプターは、アメリカではチョッパーとかヘリコと呼ばれる。日本では分類上回転翼機ということになるのだが、その名の通り、あのメインローターが実は翼なのである。あのローターが回転することにより例のベルヌーイの定理によって浮力を得ることができる。
メインローターとは別にテールローターが付いているが、あれはメインローターの回転による反作用で機体が逆方向に回転するのを防ぐ為の物である。したがって、メインローターが二つあるその名にCHを冠した自衛隊の搬送用ヘリなどにはテールローターは不要である。

ところで、ついこの間も事故があったばかりだが、ヘリコプターは決して安全な乗り物ではない。
まず心配なのは、飛行中にエンジンがストップしてしまったら・・・ということだと思う。しかし、これは何もヘリに限ったことではなく、単発の飛行機のエンジンが止まってしまった場合でも同じことである。特に日本のようなスペースの乏しい国では、唯一河川くらいしか不時着できそうな場所はないらしい。

わたしは、知り合いの操縦訓練に付き合わされて単発機の後部座席に乗せてもらったことがある。このときの教官の話では、万一エンジンが止まってしまったら、プロペラーをフェザーリング(風に対して角度を直角にする)して、17度という急角度で降下しながら、目を皿のようにして着陸できそうな川でも探すしかないらしい。
では、ヘリの場合はどうするかというと、メインローターとエンジンを切り離し、竹とんぼのように降下させるのだそうだ。しかし、そのようなことがいったいどれくらいの高度から可能なのかは分からない。ただ、アメリカで自家用のヘリコプター操縦免許を取得したその知人の話によると、訓練の一番最初に行うのがエンジンストップ時の措置だそうである。

ヘリは決して安全ではないが、非常に魅力的な乗り物である。わたしは、アルファアビエーションというヘリの訓練学校がコマーシャルと兼用でヘリの操縦訓練の番組を流しているのをときどき指を銜えながら見ている。

いつかロビンソンR22を自分の手で操縦してみたいものだと思いながら。