犬と猿

2010/12/31 17:51


The Philosopher and The Wolf というマーク・ローランズの本を読んでいる。題名の通り、ローランズは哲学教授で27歳のときに一匹の狼の仔を手に入れブレニンと名付けた。それからの、ブレニンがジープの中で立往生を迎えるまでの、共に過ごした11年間のメモワールがこの本である。
今、メモワールと書いたばかりであるが、哲学者が書いたものだけあって、人生への示唆に富んでいる。

この本にあるように、わたしたち人間の祖先は猿であった。一方、犬の先祖は狼である。著者も述べているように、わたしたちはこのことを改めて考えてみる必要があるのではないだろうか。つまり、わたしたちは猿の仲間から進化した生き物であり、その最大の特徴は狡さにある。如何に狡猾であるかが人間の価値を測る基準と言っても差し支えないであろう。こんな風に書くと、そうじゃないだろうという反論が返ってくることは承知である。しかし、少し謙虚に考えてみるなら、狡猾とまでは言わなくともわたしたち人類の賢さの故に地球全体の生態系が大きく乱され、年に何万もの生物が絶滅しているという事実に気づかされるのではないだろうか。多くの生命が、人類が、その知恵によって繁殖しすぎたがために、行き場を失い、今のこの時も滅びていっているのである。このようなことは、過去に5回あったとされる大隕石の衝突以外には地球史になかったことである。

人類の繁栄とは逆に滅びの道を歩んでいるのが狼である。ローランズによると、犬と狼は全くその知能の種類が違うのだという。氏が飼っていたニーナという犬は、彼が出張先から家に電話をかけ、奥さんがそれに出ると、その気配を察して興奮し、受話器に飛びかかろうとした。そして、夫人が受話器を置いた後も、その受話器を一生懸命舐めたという。ローランズは、このような犬の特性をマジカル・ワールドに住んでいると表現し、これに対し、狼の特性をメカニカル・ワールドと述べている。
例えば狼は、ある実験によると、一度ドアの開け方を目にすると、その手順を即座に理解するという。つまり、まずそのハンドルを鼻づらで押し、次に前足で下に下げて開けることができるのだそうだ。これが犬の場合は、どういういうことになるかと言うと、犬は扉の前に立ち主人の顔をずっと見つめるだけである。つまり、犬の場合は、狼のような機序を理解する能力が無い代わりに人間をうまく利用することを知っているということになる。

それにしても、よく犬猿の仲などと言うが、人間を猿のなれの果てと考えるなら、この猿は犬の祖先である狼ともうまく折り合いをつけてやっていく能力を備えたということになる。結局人は、猿の知恵の延長線である知能だけでは決して自分自身が満たされないことを知ったのではないだろうか。犬や狼の特徴である忠義心や真の愛情を、そして何よりも真の高貴さを求めて犬や狼を自らの友とするようになったのではないかと思うのである。