ロッシアンルーレット

さぁ、みなさん。いよいよ始まります。地球の人類諸君全員参加による世紀の、いや、今わたしわざと間違えました、地球はじまって以来の大イベントの開催です。

AIが始まりを告げた。参加しなければ、赤ん坊であろうが死ぬ間際の病人であろうが天罰が下る。

これが第一回目である。

いや最後になる可能性もある。

桁は10進法の10桁。つまり、1000億分の1で当たりが出る。今人口はだいぶ減ってきていて100億くらいだから、千枚あるカードに一つだけ当たりがあって、それを100人の人間が年に一度、一回だけこれを引いて当たりが出るかどうか決めるのだ。

引かないものは生きる権利を自ら放棄したと見做され死を待つのみとなる。

人間はみな生まれたときから「生きる権利」という名のタグを打たれる。これによって生存を保証されるが、同時に今回のような試練にも曝されることになった。

きっとAIには深い考えがあるのだろう。

さて、冷徹な論理だけで動くと思われているAIだが、ジョークも好むらしい。

さぁ、48時間の人類みな参加の、全人類の生存を賭けたギャンブルの始まりです。とAIが告げた。

このギャンブルとやらに興味のない者はほとんどいないであろう。いるとすれば、自ら権利を放棄した者か、赤ん坊くらいであろう。

赤ん坊は、自らの意思で抽選に参加出来ないので、AIがランダムに10桁の数字を割り当てるらしいが、それは生まれた生年月日時秒で決定されるとの噂だ。

ジョークが好きだと言ったのは、手元の端末に今どのくらいの危うさで人類消滅の危機が迫っているかが分かるように同心円が何十も描かれた、いわば弓の的、もしくは銃のレンジのようなものがあり(もっともこれは個人の趣味でどのようなパターンのものにでも変更が可能となっている)、これに無数のカラフルな点が点滅していて、その点の数は時間とともにどんどん増えてきている。

もちろん、点が真ん中の金的、と言おうがブルズアイと言おうが構わないが、近づけば近づくほどやばい、ということになる。

AIはこれみよがしに赤く輝く点を真ん中に近づけてきたりしてわたしたちをヒヤヒヤさせるという悪趣味を持っている。

例えば、人類滅亡の10桁の数字が1234567890であったとしよう。人類の誰かがこれに極めて近い1234567891を選んだとする。赤い点は点滅しながら金的に近づいていく。しかし、寸前でピタリと動きを止める。

これが今回は2回あった。このとき、ほとんどの人間は天を仰ぐか十字を切るか、あるいは両手を合わせるかしたであろう。そして、今回は幸いに絶滅を免れた。

だが、1年後はどうであろう。

みなさん、とAIが言った。良かったですね。スリル満点でした。楽しみが来年に持ち越されました。また来年もヒヤヒヤドキドキを味わえるということです。それでは、また来年お会いしましょう。