The eagle has landed(3)

2010/05/15 21:04


先日の続きを書く

ラードルは、この書を目にしたとき、全身の筋肉が戦慄くのを感じた。もはや、このような、すべての扉を開けることのできる鍵を手に入れた以上、何事とて達成できぬことはない。ラードル中佐は、ヒトラーより作戦遂行のための強力な支持を得たのである。

この偽の命令書を携え、ラードルはオーデニーへと飛び立つ。もちろん、それはこの作戦には絶対に欠かせない人物、クルト・シュタイナーをメカジキ作戦から救出し、説得してミッションを指揮させるためであった。

しかし、実は奇妙なことがある。それは、シュタイナーを懲罰部隊に送ったはずのヒムラー自身がシュタイナーをこの作戦の指揮官にすることに積極的なことだ。これが何を意味するかというと、ヒムラーが作戦遂行前から失敗後のことを考えていたということである。つまり、作戦が失敗に終わったときには、彼は作戦そのものが最初からなかったことにしたかった。そのためには、シュタイナーたちのような、いわば犯罪者による作戦部隊が好都合だったのである。

さらにヒムラーは、ラードルに次のような話をして彼を心底から脅えさせる。
シュタイナーの父であるシュタイナー将軍がゲシュタポ本部にいるというのである。シュタイナー将軍は、4日前に国家反逆罪によりゲシュタポの手で逮捕されていた。
ヒムラーは、ラードルが、果たして懲罰部隊に送られたクルト・シュタイナーのような男がこのような申し出を素直に受け入れてくれるだろうかとの疑義を表したときに、上の事実を知らせ、彼は父親のためにも従わざるを得ないだろうと冷徹に言い放つ。
ラードルには妻と愛する3人の娘がいた。ヒムラーは、ラードル自身がヒムラーの意向に従わねば家族がどういう目に会うかを無言のうちに知らせたのである。

ここは、この小説でも最も重要なポイントと思われる。なぜなら、読者は皆、チャーチル拉致などという作戦が現実には成功しなかったことを良く知っている。また、冒頭の記述からも、この小説のラストにはシュタイナー以下13名の落下傘部隊が悲劇に見舞われるであろうことを半ば予期している。つまり、誰もが最初からこの作戦が失敗することは分かっているわけであるから、問題は、ヒムラーのような男がどのような手段で、自らが企てた作戦の幕引きを行うかにある。ここを疎かにしたのでは、小説自体が腑抜けたようになってしまうであろう。

さらにこの場で、ラードルの口からヒムラーに対しての形で、ミッションの全貌が語られる。それは、ポーランド軍に扮装してイギリスに降下するというものである。しかし、ヒムラージュネーブ協定を持ち出し、ポーランド軍の扮装の下にドイツ軍のユニフォームを着用させるよう指示する。ラードルには最悪の指示に思えたがこれに異を唱えるわけにもいかない。

結局、このようなことがあって、ラードルはオーデニーへと飛び立つのである