西郷の貌

2012/02/27 12:24

タイトルの本を買って読み始めた。これは、歴史ミステリーである。つまり、小説であるのだが、ただの小説と思わせない思わせぶり(というと失礼だが)が顕著に見てとれる。

著者の加治将一氏というのは、他にも「あやつられた竜馬」、「幕末維新の暗号」、「舞い降りた天皇」・・・、といった日本の歴史の裏面に焦点を合わせた著書が多い(と言っても、わたしはこれらを読んだわけではない)。

西郷隆盛といえば、上野の銅像高村光雲作)が有名、というよりも、これ以外に西郷のイメージを思い浮かべられる人は、もはやこの世には存在しないのではないか。
しかし、この銅像の除幕式に呼ばれた西郷どんの妻糸子さんが「こげなひとじゃなかったごてぇ」と叫んだという話は、わたしもNHKで見て知っていた。

この本は、それではなぜ、維新の三英傑の一人とされる西郷の像をこれほどまでに実際と違うものにしてしまったのかという疑問を、これは明治政府の陰謀によるものであったのだ、として読者の好奇心を掻き立てることに見事成功している。

掲載された写真(この小説では、福島の磐城平藩の藩校ー磐城祐賢学舎ー跡地で発見されたアルバムの一葉であるとしている)は、島津忠義(久光の長男で、叔父である十一代藩主斉彬の養子となり、最後の藩主となった)と思われる若侍を真ん中に計13名の帯刀羽織袴姿の侍たちが実に凛々しく、そしてシンメトリカルに立っているものである。

著者は、この写真の右端に立つ他の侍たちよりは頭一つ、文字通り抜きん出た長身の超然とした風情の男こそが若き日の西郷だというのである。
もちろん、その風貌は、上野の銅像とは似ても似つかぬものである。もしも、この男が本当に糸子さんの夫であったなら、糸子さんがあの銅像の前で声を上げたのも至って当然のことと納得がいく。

さて、話がこれからどのような展開を見せるか、楽しみである。