犬猫のテーブルマナー

2010/04/17 19:07

犬と猫の両方を飼ったことのある人なら、誰でも知っていることがある。それは、食事の仕方がまったく違うということである。


わたしは子供のころに犬を2匹と猫を一匹飼っていたことがある。犬は中型の雄と小型の雌だった。この二匹、実は雄と雌でありながら仲はあまり良くはなかった。マリという名のマルチーズが嫉妬深くて、わたしがドンと名づけた柴を可愛がると嫉妬を煮えたぎらせ、ときにドンの後足を噛んだ。

ご飯を与えるときにも注意を要した。二匹を少し離して、ボールに餌を入れて与える。当然図体の大きいドンの分量が少し多くなる。それは、マリも承知していて問題はないのだが、ドンの方がたいてい早く平らげ、モノ欲しそうな顔をマリに向ける。すると、たちまちマリはうなり声を上げ歯を剥き出し横目でドンを威嚇する。ドンはすぐに目を逸らす。これがいつものパターン、つまり日常茶飯事だった。

ところが、猫という生き物は、ご承知のようにたとえば一つの器にミルクを入れて与えても2匹、3匹が別に争うでもなく、仲良く食事を伴にする。

これはいったいどういうことだろう。
しかし、考えてみれば、犬というのはもともとは狼から分かれた生き物だし、その狼はアルファと呼ばれる一頭の雄を頂点に厳しい序列の社会を形成している。
狼はパックアニマルといわれるように集団で狩をする動物であるから、アルファの統制の下、極めてシスティマティックに獲物を仕留める。仕留めた獲物を真っ先に食うのは当然アルファ雄である。その次にアルファ雄の伴侶であるアルファ雌が食事にありつく。序列の最下位のものは、上位のものが腹を一杯に膨らませ、ようやく餌から興味を失った後に初めて食事にありつけるのである。因みに狼や犬の満腹感は血糖値によるものではなく、胃袋が風船のように膨らむことで得られるという。

そして猫であるが、これは野生のライオンなどを観察していると良く分かる。ライオンはプライドという一種のハーレムを作るが、これは1頭ないし2頭の雄ライオン(兄弟)をトップに置いた雌ライオンとその仔を中心とする集団である。

このような集団がどのような狩をするかは、いまさらここに述べるまでもないが、雌がやはり役割を分担しシスティマティックに行うことが知られている。その雌たちが仕留めた獲物に真っ先に喰らい付くのが雄である。雄は心臓を食い、腸を食いと、まずうまいところから食い始め、たらふく食って満足するとようやく雌たちに餌を譲り渡す。これが、ライオン式テーブルマナーなのであるが、雌のライオンたちが不公平だとかジェンダーフリーがうんぬんかんぬんとか不満を露にしている様子は見たことも聞いたこともない。
余計事ながら、この辺の事情は社民党などの偉い人たちに是非研究をしてもらいたいと願う次第である。

さて、狼や犬とは違い、雄から餌を譲り渡された雌ライオンたちは仲良く餌を食べ始める。この辺は、非常に平等である。餌を巡るいがみ合いなど見たこともない。

おそらく、この辺の美しき伝統が猫にも伝えられたのだと思われる。猫たちの食事風景は実に和やかである。そして、犬のようにがつがつしていない。他人様の分までモノ欲しそうに見るなどという下品な振る舞いはついぞお目にかかったことがない。これは猫の一番の美徳であると思う。

犬にしても猫にしても、わたしがどう思おうと関係なく、ただ野生の赴くままに行動しているだけである。しかし、それが実に合理的なマナーになっていることは学ばなくてはならないと思う。

犬の社会に序列があるのは差別でも何でもない。餌の乏しい環境で群れ全体が生き延びていくには、そういう群れとしてのあり方が至極合理的であるからだ。

ライオンにしても然りである。雌が自分たちばかり一生懸命働いているのに、雄はただ美味いものを食っているだけではないかなどと、不満を口にしはじめたら、それこそイソップの手と胃袋のような事態に陥ってしまうだろう。それに何より、雄たちにもノーブル・オブリージュなるものが存在する。ハイエナなどの外敵からプライドを守らねばならないのである。そのために雄はたとえ1頭ででも徹底的にハイエナの首領を追い詰める。そして、ついには仕留めるのである。

わたしがいつも思うことは、難しい理屈を捏ね繰りまわすより、まず野生の動物たちの生き方に学んでみようということである。人間が後天的に獲得した知恵などというのは、所詮アダムが食った林檎から得られた後知恵に過ぎないのだから。