S・ジョブズを悼む


2011/10/06 10:36

とうとう、この日がやってきてしまった。スティーブ・ジョブズが亡くなってしまった。

ジョブズをなぜ、わたしなどが惜しむか。それは、氏のスタンフォード大学での名演説に感動し、それ以来、すっかり氏の生き方に魅了されてしまっていたからだ。
stay hungry, stay foolish これがその名演説のタイトルである。演説は大きく3つのパートに分けられている。はじめは[点と点を結ぶ]という話で、勿論、これだけではいったいジョブズが何を言おうとしているのか、まったく分からない。話は、ジョブズ生い立ちから始まり、後にマッキントッシュを立ち上げたときまでが語られる。

話の中で、ジョブズは両親が本当の親ではなかったことを明らかにしている。実の母親は、ジョブズを産んだとき、まだ大学院生だった。父親のことはここでは語られていないが、わたしの記憶ではたしか中東のどこかの国の外交官になった人であったと思う。ともあれ、ジョブズはこの養親のもとで育てられ、リード大学へ入るが、そこに意味を見出せずすぐに中退する。ただ、大学は辞めたけれども、リード大学にはカリグラフィ教育というジョブズを虜にするものがあった。このために、ジョブスはこれをひたすら学ぶのである。実は、これがこの話の主題である「点と点を結ぶ」の最初の点になる。この「点」が、果たして将来どの「点」と繋がるかというと、これが実はマッキントッシュの美しいフォントに結びつくのである。

2番目は、「愛と喪失について」のはなしである。ジョブズは、このように言っている。
人生の始めに自分が本当に愛するものを見つけたのは大変な幸運であった、と。そしてまた、その愛する仕事を失ったときは、人生を失ってしまったような気がした、とも。しかし彼は、振り返ってみると、結局はそのことが良かったのだとも言っている。アップルを追放?されたお陰で、自分は真に創造的な仕事をする機会を得ることができた。そのお陰で再びアップルのCEOとして返り咲くこともできたのだ、と。

最後は、「死について」の話だ。17歳のときジョブズは「毎日を人生最後の日だと思って生きてみなさい。そうすればいつかあなたが正しいとわかるはずです」というジョークにショックを受けた、と言っている。そして、それ以来ずっと、彼は毎朝鏡の前で、今日が人生の最後の日だとしたら、今自分がやろうとしている仕事は、本当に自分がやりたいことだろうか、と問うようにしたと言うのだ。
上のことを前置きに、ジョブズは、今から一年前に自分はすい臓がんの宣告を受けた、と言っている。すい臓がんは、がんの中でも最も悪性と言って良いほど、治癒の難しいものである。その宣告のとき医師たちは、家に帰ってやるべきことを済ましなさい、と助言したと言う。しかし、生検を行った結果、幸いにしてジョブズの罹ったすい臓がんは比較的良性のものであることが分かった。
ジョブズは、死について、学生たちにこう語りかけている。死は生による最高の発明品であり、またチェンジエージェントである、と。これの意味するところは、古いものが消え去り新しいものへ道を譲るということであり、その新しいものとは、今自分が語りかけているあなたたちのことなのだ。しかし、そのあなたたちもやがては古くなり死を迎えることになるのだ。
ジョブズは続けて言う。君たちが持つ時間は限られている。他人の人生に自分の時間を費やすことはない。誰かが考えた結果に従って生きる必要などないのだ。自分の内なる声を雑音によって惑わさるな。最も重要なことは自分自身の心と直感に素直に従い、勇気を持って行動することだ。心や直感というのは、君たちの本当の望みを知っている。よって、その余のことに惑わされる必要などないのだ、と。

そして最後の締めくくりが、 "The Whole Earth Catalogue"という彼が若い頃に感銘を受けた本についてである。 実は、演題のstay hungry stay foolish はこの本の最後の号に書かれていた、いわば作者から読者への最後のメッセージをジョブズが大変気に入って、今回の演説でスタンフォードの学生たちへの餞としたものだったのである。

ジョブズの死を世界中の人が惜しんでいる。わたしもその一人である。ここに謹んでご冥福をお祈りしたい。