2012/04/24 20:47
・ＤＮＡ鑑定キットに製造段階でＤＮＡ混入か
・去年、全国の警察に導入されたアメリカ製のＤＮＡ鑑定キットに、製造段階で工場の従業員のＤＮＡが混入した可能性があることがわかった。
・警察庁によると、ＤＮＡが混入した可能性があるのは、去年３月に全国の警察に導入された唾液などからＤＮＡを抽出する鑑定キット。アメリカの工場で製造されているときに、工場で働く従業員のＤＮＡが混入した疑いが強いという。これを受けて、警察庁は、全国の警察に鑑定キットの使用を中止するよう通達を出した。
この鑑定キットはすでに２万５０００個が使われているが、警察庁は、混入されたＤＮＡが特定されていて、鑑定結果が容疑者の特定や公判の証拠などに使われていないことから問題はないと話している。
というのを見つけた。
それで思い出すのが、あの菅谷さんを冤罪に追い込んだ幼児連続誘拐殺人事件のことである。
以前にわたしは、この冤罪事件について一文をものした。わたしは、この事件の真相を追求し続けている清水潔氏に敬意を表するとともに、警察の総力を上げて事件解決に取り組んでもらいたいと深く願っている。
以下は、 以前ここに寄せたわたしの日記全文である。
文芸春秋１０月号に未解決事件３５という特集があった。わたしは、中でも菅家さんの冤罪事件に関心を持って読んだ。
菅家さんが一度は犯人にされ、１７年もの間戦い抜いて終に冤罪を晴らしたこの事件というのは、新旧二つのＤＮＡ鑑定が話題になった事件である。今から二十年も前のこの事件で採用された鑑定方法はＭＣＴ１１８法と呼ばれるもので、血液鑑定と合わせて「１０００人に１，２人」程度の精度のものだった。ところが、再審で採用されたのはＳＴＲ法という数兆人に一人まで特定できる精度のものである。
しかしこの記事で、筆者である日本テレビ社会部記者の清水潔氏が疑問を投げかけているのは、ＤＮＡ鑑定の精度などといった技術的な問題についてではない。氏は、菅家氏の冤罪がはっきりしたにも関わらず、警察や検察が真犯人の捜査に余り積極的ではないことを指摘している。そして、その理由として、ＭＣＴ１１８法が有力な証拠として採用された他の事件にまで影響が及ぶことを恐れているからではないかとまで言及している。つまり、同じＭＣＴ１１８法で下された他の裁判を、やり直す必要が出てくる可能性があり、先にあるのは再審請求の山ということになる。しかも、その中には不可逆の刑まで含まれている。福岡県飯塚市で起きた通称「飯塚事件」である。これは１９９４年に女児二人を誘拐し殺害したとして福岡県警に逮捕された男（久万三千年）が、犯行を否認したまま０８年秋に死刑が執行されたものである。
清水氏の疑いは、検察が事件当時自信たっぷりだったＭＣＴ１１８法を、再鑑定の際に使用することをなぜ避けたがったかという点にある。検察は、再審の際に、「申立人のＭＣＴ１１８法部位のＤＮＡ型だけを行う鑑定は、無意味であるばかりか有害であるとすら言えるので実施することは反対である・・・」との意見書まで付けていたのだという。
ところが、当の鑑定人は、再審の法廷で、実はＭＣＴ１１８法も試みたと吐露した。だが結果は明らかにしていない。
一方、弁護側の鑑定人である筑波大学・本田克也教授は、真正面からＭＣＴ１１８法による鑑定を実施した。すると、驚くべき結果が出た。これまで科学警察研究所の鑑定では、犯人のＤＮＡ型は「１８－３０」となっていた。ところが本田鑑定では「１８－２４」と出たのである。つまり、当時の足利事件のＤＮＡ鑑定は「精度が低かった」のではなく、「完全な誤り」だったのである。ところが、検察はこれを認めようとはせず、本田鑑定に対し猛然と反論を始めた。清水氏は、この理由を先に述べたように、過去に遡及してＭＣＴ１１８法で下された裁判の再審請求が起きることを恐れているためと見ているのである。
さらに清水氏は、時効になったとはいえ、この松田真実ちゃん誘拐殺害犯人は、他にも４つの女児誘拐殺害事件の犯人である可能性が高いのにも関わらず、さっさと幕引きを行おうとしているような様子に疑問を提示している。
氏は、この菅谷さん事件に長く、そして深く関わりをもってきた記者であり、氏自身はすでに犯人を特定しているのだという。そのうえで、真実ちゃんの着ていた半袖シャツ（これには犯人の体液が付着している）のＤＮＡを再々鑑定すべしと訴えている。これは犯人を特定するという目的のためである。氏は、これまで犯人が誰であるかを複数のルートを通じて当局に提供してきたと述べている。だが、当局はまったく動かない。そして、犯人は今も安穏と北関東でパチンコを打っている。氏は、時効を盾にした、まるで共犯関係のような不正義がいつまで放置されるのか、と怒りを表明しているのである。
そしてこの夏、さらに不可解なことが起きた、と氏は指摘する。真相解明の重大な鍵、「半袖シャツ」の行方だ。
菅谷さん無罪確定の後、警察庁と栃木県警は、遺族に対し「もう公訴時効を迎えてしまったので・・・」とはっきりと説明した。
それなら、と遺族が遺品であるシャツの返却を希望すると、裁判所からではなく、検察から回答がきた。それは「赤いスカートなどの遺品はお返ししますが、シャツだけはこのまま預かりたい・・・」。国の施設で冷凍保存したいというのだ。
もはや時効で、使途のないはずの遺品を、返却もせずマイナス８０℃の冷凍庫に封じ込めるというのだ。これはいったい何のためなのか。真犯人を名指しできる最大の証拠を、ＭＣＴ１１８法と共に、永遠の氷漬けにするつもりなのか。
氏はさらに続ける。
これら全ては司法の水面下での出来事で、決して記者発表されることはないが、紛れもない事実なのだ。
だが、もしも今後、北関東で六番目の幼女被害事件が起きた時、国民に対し、いったいどう弁明するつもりなのだろうか。
以上が記事の内容であるが、実におぞましいとしか言いようのない事件の構図である。無実の人間が１７年間も自由を奪われ、心身ともに極限の状態にまで追い込まれた。その一方で真犯人はほぼ特定できているというのに、検察の圧力によってなのか、警察はまったく動こうともしない。その理由というのが、かつてのＤＮＡ鑑定方法の瑕疵を明らかにしてしまっては、再審請求の山が出来てしまうからというのだから、これでは死刑廃止論者達を大いに活気付けるだけで、この国の正義は地に落ちてしまったとしか言いようがない。
このような不作為の不正に対しては、わたしたちは声を大にして糾していかなければならないのではないか。わたしは、この記事を読んで強い憤りを覚えた。
わたしは、わたしと同じ怒りを大勢の人に共有してもらいたいと願い、ここに取り上げさせてもらった。
以上であるが、清水氏によると、清水氏が真犯人と確信をもっている男のＤＮＡ鑑定は2か所で行われており、そのうちの一か所ではこの男と遺品についた犯人の遺留物とのＤＮＡが完全に一致している。
ところが警察は、科学警察研究所が行った鑑定結果がこの男のＤＮＡと一致しなかったとして、清水氏らが行った鑑定結果を撥ねつけている。
それにしても、いったいなぜ、このような二つの鑑定結果が出てしまったのか。
これはＤＮＡ鑑定そのものの信頼性を揺るがせかねない大問題である。しかるに、このような事実は一向に公にはされなかった。
わたしは、ここに大いなる胡散臭さを、彼等としては蓋をしたつもりなのであろうが、どうしても圧えきれずに漏れてくる隠蔽臭を感じてしまうのである。
しかしわたしは、おそらくこのＤＮＡ鑑定の不一致は作為によるものではないであろう、と思っている。 これもまた、不作為によるものなのである。
つまり、考えられる最も大きな原因は、冒頭のようなＤＮＡ鑑定キットそのものの欠陥とするのがごく妥当な結論であろう。しかし、警察はおそらく今後もDNAキットそのものを調べることはあるまい。およそ検査をするのに検査機器の較正をしないことなど有り得ないにもかかわらず、である。それは、彼等に何の利益ももたらさないからである。
だが、この問題は決して看過することのできない大問題である。なぜなら、たとえば世田谷で2000年末に起きた一家4人惨殺事件、この犯人と思われる人物のDNA鑑定結果は、その母方のミトコンドリア型が日本人にはないアンダーソンH15型と呼ばれる南欧型であったとされている点である。
しかし、冒頭に述べたような検査キットの信頼性そのものを害うような記事を読んだ後で、果たしてこれが信用に値する事実であると疑いなく思えるであろうか。
わたしには、かえって捜査を袋小路、いや迷宮入りにさせてしまう恐れさえあるという気がしてならないのである。
DNA検査の犯罪捜査への応用はまだまだ確立しているとはいえないのではないか。菅谷さん冤罪事件は、その何よりの証左であり、今後これを教訓にハード面、ソフト面共に確固としたものにしていかねばならないのではないか。
いずれにしろ、日本の警察は今度の千葉県警の不祥事といい、劣化の一途を辿っているとしか、わたしには思えない。
良識ある警察官の奮闘を期待したい。
