岩手17歳女性殺人(二人の梢さん)事件に思う

もう12年も前に起きた事件に言及するのは、この事件の裏に日本の闇が隠れているように思われてならないからである。そしてまた、わたしにはその闇が一人の有能なジャーナリストの命をも飲み込んでしまったように見えるからである。

その事件とは、まさにミステリーさながらでありながら、決して小説などではない、現実に一人の17歳の少女が殺され、その犯人とされる男は、岩手県警が三百万円もの懸賞金を付けて指名手配しているにもかかわらず、いまだ逃亡を続けている、と世間は思わされているが、実際にはこの事件の真の犯人に殺されてしまっている公算が強い。さらには、この事件を岩手県警による意図的(?)な冤罪として追及してきた黒木昭雄さんというジャーナリストの練炭自殺という、なんとも、すんなりとは腑に落ちぬオチまでついているのだ。

黒木さんというのは長年警視庁に務め、警視総監賞を二十三回も受けたというひとである。しかし、警察という組織のあり方に思うところがあって辞職し、その後は警察官としての経験を活かしジャーナリストとして様々な事件に関わってきた。

その最後の事件となったのが、この岩手17歳女性殺害事件だったのである。

殺されたのは、佐藤梢という17歳の少女と言ってもよいほど若い女性なのだが、事件を複雑にしているのは、彼女には同姓同名同年齢の友達がおり、本来殺されるはずだったのがこちらの佐藤梢bであったらしいことである。

そして、梢aを殺したとされているのが梢bの交際相手で、今も三百万円の懸賞金付きで指名手配されていながら、既に事件から八年も経とうというのに未だ消息不明のCである。

さて、黒木さんが死をかけてまで追求しようとしていたこととはなんであったのか?

それは、岩手県警にとってはこの上ないほど恥さらしなことであった。

なぜか? それは、まず第一にCが梢a殺しの真犯人とはなり得ないからである。なぜならCには、梢a殺害時刻以前より右手を負傷しており、その診察を行った医師が、そのような状態で扼殺することも遺体を投げ捨てることも無理である、と証言しているからである。

また、Cには、そもそも確かなアリバイがあったのである。右手に大きな傷を負った状態で飲酒運転をして電柱に激突し、友人の家で介抱を受けていた。そして、それから弟の家まで送ってこられ、そこでずっと家人と顔を突き合わせているのである。その家から遺棄現場までは往復四時間かかり、到底犯行は不可能とされる。しかし岩手県警は、犯行の時刻をおよそ無理筋な範囲にまで広げることによってこの困難を回避しようとしているのだ。

では、なぜ岩手県警はこのような無理筋の論理を展開してまでCの逮捕状を取り、犯人に仕立て上げねばならなかったか?

そこには、ネットを見る限りどこにもこの男について詳らかにはされていないが、Zという謎の男の存在がある。

明らかにされたものがないので、これはわたしの推察でしかないが、九分九厘この男は堅気ではない。

ネットの記事によるとZは、事件の一年ほど前、Cに新潟での型枠大工の仕事を斡旋してやったが、Cがその仕事を数日だったか1週間だったか、いずれにしろごく短い期間で辞めてしまったことにより自分の顔を潰されたとして、Cを自宅に呼び出し、日本刀を口に咥えさせるなどして脅迫し、120万円を払わせる旨の念書を書かせたのだという。そして、その緊急避難下の状況でCが保証人として名前を書かされたのが梢aだったのである。このとき、梢aは、Zの家の外に停めた車の中におり、Zとは顔を合わせてはいない。

結局、Cは120万円を払うことができず、被害届を梢aと共に警察に届け出た。警察はこれを受理し、後にCがこれの撤回に訪れたときにもこれを拒否している。しかし、殺人事件が起き、これが世間を騒がせるほど知られるようになると、なぜかこの被害届受理の否定に廻っている。

Cは、おそらく保証人として自分が名前を書いた梢bの身代わりとして梢aが殺されたことを知り、自分も近いうちに殺されると考えたに違いない。

彼は、自殺の名所として知られる太平洋を臨む高い崖から身を投げて自殺したという偽装を行なっている。偽装と判断しているのは警察である。わたしが思うにおそらく、この判断は正しい。しかし、果たしてこの偽装はCが計画し実行したものだったのであろうか。これは大いに疑問である。

なぜなら、何も握れないほど右手に深い傷を負ったものが指名手配をされているというのに、一向に捜査の網にかからないのである。網をすり抜けた形跡さえないのだ。

それよりも、普通に考えれば、わずか120万円ほどのたかが知れた金銭のために(それが真実だったとしての話だが)保証人の少女をいとも簡単に殺してしまうほどの相手である。この相手がCに偽装自殺を教唆しておいて、実際に殺してしまったと見る方が自然ではないだろうか。

しかし、岩手県警という捜査のプロ集団は、そのような推理小説もどきのものの見方はしないらしい。

ところで、である。いったい、Zの脅迫の件はどうなってしまったのであろうか。もともと、この事件の根は、ZのCに対する脅迫、強要にあるとみるのが本筋であろう。しかし、岩手県警がその後、Zを調べ上げたという情報はない。

岩手県警はいったい何を恐れているのだろうか。よもやZという個人ではあるまい。であるとしたら、それはZの背後にある何らかの強大な組織であろう。それは、政治をも支配し、警察をも動かすほどの権力を持つ政治家を利用したものであったかも知れない。

黒木さんの死が本当に自殺であったとしたら、このひとをそこにまで追いやったのはこの強大な組織であったかも知れないし、仮に他殺であったとしても、やはりそれにはこの組織が関与したに違いない。

さぁ、自民党のような強大な権力?に果敢に挑み続けるマスコミどもよ。この事件に対しても、君たちは羊たちのように沈黙を守っているように思えるのだが、それはわたしの勘違いであろうか。それともそれは、この事件が君らにとってはあまりに卑小な、取るに足りない事件だからなのか。ぜひその応えを聴きたいものである。