カミヤ

2012/06/09 17:24


明治時代。日本に滞在したアメリカやイギリスの高官たちはフォックステリヤとかセッターとかダックスフンドシとかいった犬たちを単なるペットとしてか、それとも猟に使うためかは知らないが連れてきていたらしい。

高官やその奥方たちは、広い庭に愛犬たちを自由に遊ばせていたに違いないが、彼等は犬に向かってこっちに来いというとき、果たしてどんな風に呼んだのだろう。
come hereと呼んだに違いない。なぜならこの時代、日本人は洋犬のことをカミヤと呼んでいたからである。今でこそカミヤは死語となったがハイカラや、あるいはカンガルーのように長寿を得る可能性もあった。

笑い話がある。ある高官の奥方が幼児を庭で遊ばせていた。幼児はおぼつかない足取りでよちよちと身体を傾けながら、池の方に歩いていく。
日本に来て間もない奥方は思わず叫んだ。
「あぶない」
近くで松の手入れをしていた植木屋は大いに感心した。
「えれぇもんだ。日ノ本に来てまだ三月にもならねぇというのに、はや言葉を覚えて、とっさの時に使われるとは」

なんのことはない。この奥方は、
"Have an eye" と叫んだだけだったのである。