the key to midnight 1

2013/05/21 11:43

昨日の続きになるが、the key to midnight はまさにpage turnerである。面白くて止まらない、かっぱえびせんのごとき作品といってもよい。

これもまたハードボイルド作品である。PI小説と呼んでもよい。そもそもAlexという主人公自身がセキュリティ会社(探偵会社)の経営者なのである。だから彼は、会社の力をフルに使って強大な敵と戦うことができるわけである。この辺が従来の一匹狼的主人公とは少しばかり違うところなのだろう。

面白いのは、ジョアンナ(リサ)だけでなく、アレックス自身もまた幼いころにアル中の両親から虐待を受けたという心理的外傷をもつ人物であるということである。それがために、彼はジョアンナを愛していながら彼女と関係を結ぶことができない。このへんのもどかしさももちろん作者のテクニックのうちである。そして読者はみごとにその術にはめられてしまうのだ。

アレックスがおそらく作者クーンツの投影であろうということは、クーンツの生い立ちから容易に推察できる。クーンツ自身がアレックスと同じようなアル中の両親の元に育っているからである。

まだ半分読み終えた段階だが、読みながらいろんなことを考えた。一つは、洗脳ということについてである。

ジョアンナとリサが同一人物であることはすでに述べた。しかも読み進めていくうちにリサがアメリカのシェルグリンという上院議員の娘であることが分かってくる。またシェルグリン自身は、ベトナム戦争時にベトコンの捕虜になったが自力で脱出したという経験を持つ。つまり、このあたりが大きな伏線というか伏流になっていて、背景には国際的な陰謀があるのではないか、と読者の期待を大いに煽っている。

リサは、二十歳のときに何者かによって拉致され、それから十数年たった現在、プライベートで京都を訪れたアレックスによって偶然見つけられる。実は、アレックスはまだ会社が小さかったころ、シェルグリンの依頼によりリサ事件について大規模な調査を行っていた。

このように、まず冒頭、大きな謎が読者に提示されるのだが、その謎はおそらくこれを読み終えない限りは解けない。
わたしはまだ読み終えていないので、果たしてどのような陰謀によって、またどのような理由によってリサの人格がジョアンナに変えられたのかは分からない。

ただ、その洗脳ということについて下手な考えをめぐらせてみると、人間というものは百人が百人、いや70億の世界人口の誰一人として洗脳にかかっていない人間はいないと思うのである。
宗教や道徳をはじめ、経済、科学技術やその他の学問、人間は絶えず何らかの洗脳を受けているのだが、ただそれを洗脳とは受け止めていないだけのことなのだ。

先に読んだロストワールドでは、ラプターをはじめとする恐竜たちが非常に奇異な行動を示す。一つの餌食を巡って互いに殺しあったり、あるいは育児放棄どころか、人でいう幼児虐待のようなことを行うのである。その理由というのが、この恐竜たちはみな人工的に遺伝子操作によって創造されたために親から何も学ばなかったからというものであった。これはある意味、洗脳をまったく受けなかったための姿ということもできるのだろうか。

洗脳とはbrain wash の直訳なのだろうが、本来の意味はおそらく、いちど白紙状態にした脳に何か特定の思想なりを塗り込めることを言ったのであろう。
そうすると、わたしの上に言う洗脳は、いわゆる洗脳とは少し意味が違うかもしれない。しかし、人間というのは、決して自由ではない。何か、自らが作った規範に深く捕らわれてしまっていて、決して自由な発想や思想が行えなくなってしまっている。その意味においては、やはり洗脳されてしまっているのである。