鏡と電気、あるいはすべては幾何学であること

2015/08/11 11:43


電流と磁束と運動の方向という三者の関係を表すものにフレミングの右手、および左手三指の法則がある。

ここで、たとえば右手の三指を鏡に映してみれば、鏡は左手の三指を示すことになる。このごく当たり前のことから、次のことが分かる。

つまり、三指のうち、いずれか一つの指を鏡に向けたとき、他の二指は同じ方向を向くということである。
これは非常に面白いので、わたしは新入社員に電気を教えるときには好んでこれを使っている。

なにが面白いか? 右手はふつう発電機を表す。左手はモーターである。すると、右手も左手も中指は電流の方向を示すから、右手(発電機)の中指を鏡の方向に向けるということは、鏡に映っている左手(つまりモーター)に電流を送っているということを意味する。このとき、お互いの中指が向いている絶対的な方向は逆であるから、発電機は電流を送り、逆にモーターは電流を受けている、のである。そして、人差し指の方向(磁力の向き)が同じであれば、発電機と同じ回転方向(親指の向き)にモーターが回転するということを示している。

上が面白いのは、電気や磁気という目に見えないものが極めて幾何学的な性質を持っているということである。そしてこれは、マックスウェルの電磁方程式にもつながるということである。

もうひとつ、電気が幾何学と大いに関係する例をあげるなら、三相モーターの回転方向と電源との結線方法についてである。
三相モーターというのは、一般の家庭用電化製品(たとえば扇風機とかドライヤー)に使われている単相モーターとは違って、電気的に120度ずつずれた三つの波をもつ電源から電力の供給を受けて回転するモーターのことである。

このモーターからはふつう3本のリード線が出ていて、それぞれUVWと端子記号が付けられている。

すこし専門的なことをいうなら、家庭用の単相モーターは、原理的に回転磁界を持たない。
単相交流は、エンジンでいうならピストンの往復運動と同じなのである。ピストンの往復運動を回転力に変えるには、ピストンが上死点、あるいは下死点にきたときのコンロッドの角度が垂直から少しずれていなければならない。少し角度をずらすことにより回転力が生じるのである。
これと同様のことが単相モーターにおいても行われている。ただし、それは機械的な角度ではなく、電磁気的な角度ではあるのだが。

枕の部分が長くなってしまったが、三相モーターの回転方向には正回転と逆回転という規格が設けられている(正回転はモーターのお尻(反負荷側)から見て右回転)。

さて、この回転方向についてであるが、先に三相モーターにはU、V、Wというリード線が出ていると言ったが、これを正回転にするには、それぞれ電源に付けられたR、S、Tという端子に結んでやればよい。すなわちR-U、S-V、T-Wと接続するのである。

それでは、このモーターを逆回転させるにはどうすればよいか。
答は簡単で、いずれか二本の線を入れ替えてやればよいのである。たとえば、R-Uはそのままで、S-W、T-Vと接続するのである。


新入社員はたいていこのような知識はもっている。だから、上のような長い枕を振る必要はないのだが、

「なぜ二本入れ替えれば回転方向が逆になるか説明してみよ」

と訊くと、たいていお手上げになってしまう。


実は極めて簡単なことなのだが、電気や磁気の生半可な知識が邪魔をして難しくしてしまっているのである。

わたしなら、彼らにこのように教える。

ホワイトボードに三角形を書く。頂点にUと記号を付ける。向かって右下の角にV、左下の角にWと記号を付ける。仮にこの三角形が左に回転するなら、記号はUVWUVWUVW・・・UVW・・・とずれていくわけである。
これを右回転させるには、頂点のUを指でつまんでおいて、底辺の両端を逆にしてやればよいということが分かる。これは、取りも直さず、この三角形を裏から見たのと同じことであるのに気が付くであろう。

上は電気と幾何学との関係についての例であるが、わたしが思うに、物理上のすべて現象は幾何学に帰する。相対性理論にしても詰まるところ幾何学である。

たとえば、1からはじめて奇数ばかり100回足す計算をするとしよう。答えは1万である。あるいは、2からはじめて偶数ばかり100個足す計算をするとしよう。答えは1万百である。

これは、公式の

O=n^2 、E=n(n+1)

で簡単に求められる。

これが幾何学であることは次のことから明らかである。
たとえば、奇数の場合、

口、田、囲という漢字がヒントになる。つまり、タイルのようなものをこのように展開していけば、常に真四角になるから、上の公式が証明されるというわけである。偶数の場合は、この真四角の下にタイルを一個ずつ並べていけばよいだけだ。