ユッケと原発

2011/05/07 17:13


食中毒事件が大きな問題になっている。O111という病原性大腸菌による食中毒で既に4人が死亡。その他にも重症の患者が多数発生している。
新聞によると、この食中毒を起こした焼肉チェーンのオーナーは、安い商品を販売することにより、一代でここまで商売を大きくしたのだという。記者会見で土下座をして泣いて見せたりしているが、どこかパフォーマンスめいていて、本当に事件を真摯に受け止めているのか疑わしいという思いに捉われる。もしも、死者が4人も出た事実を重大に受け止めているなら、どんな言葉も出ないはずだと思うからだ。

ところで、わたしはこの事件の経過を見ていて、こんなことを思った。それは、この食中毒事件ではすでに死者が4人も出たが、あれほど大騒ぎになっている原発事故では、今のところ、一人の死者も出してはいない、ということである。放射能と病原菌と、どちらが恐ろしいかというと、結果的には病原菌の方が余程恐ろしいということになりそうだ。

しかし、わたしが原発とこの食中毒事件をここで同列に取り上げたのは、他に理由がある。実はこの二つはまったく同根の事件なのである。なぜなら、ユッケによる食中毒事件も福島の原発事故も安全性よりも経済を優先した結果、起きたのである。
食肉は厚生労働省の所管であり、原発は主として経済産業省の所管である。所轄官庁の違いはあれ、双方に共通するのは、極めて杜撰でいい加減な政策や行政指導である。
原発に関しては、まず原発をチェックする立場にあるはずの保安院がそれを推進する側にある経済産業省の下部組織であるという、まったくその存在理由を疑わざるを得ないような事実がある。
食肉については、生食用(実際には流通していない)以外の生肉の扱いについては加熱処理、もしくは大腸菌の付着しやすい肉の表面を削り取るトリミングという処置が必要であったのに、実際にはこの辺のことは業者任せであり、それが必ずしも行われていないという実態を承知していながら厚労省は規制の強化などを行わなかった。

わたしは、焼肉チェーンのオーナーが土下座して謝るなら、厚労省の担当者も同様に土下座すべきではないかと思う。
また、原発についても、東電だけが悪いのではない。勿論、ぬるま湯にどっぷりと浸かって殿様商売を続けてきたその体質には大いに問題があった。しかし、その危険性には蓋をして、原子力政策を押し続けてきた国に問題はなかったのか。

結局、わが国の古来よりの体質として、いついかなる時でも責任を取る者など一人としていないのである。すべてが空気のせいということでまた決着がついてしまうのであろう。
わが国の民は素晴らしい。しかし、その民草たちに比して、なんと為政者や官僚たちの愚劣なことか。
やはり、ノブレス・オブリージュという言葉を持たなかったこの国に真の貴族など決して生まれはしないのだ。