奔訳 白牙24

2017/02/14 19:42

ハリネズミは栗の毬のように丸くなり、防御のために長く鋭い針を全方向に向けて立てた。若い頃、片目はこれと同じような状況で針を立てた毬に近寄りすぎて、予期せぬ尻尾の一撃を顔に受けたことがある。針の一つが鼻に刺さって、その火のような痛みから解放されるまで何週間もかかった。そんなことから、彼はリラックスした姿勢で伏せたまま、鼻は十分に安全な距離を置き、尻尾の振れるレンジから外した。そうして、完全に静寂を保ったまま待った。このまま何も起きないとは限らない。何か予期せぬことが起きるかも知れない。ハリネズミが毬の形を解きほぐそうとするかも知れないではないか。そうなれば、巧みな前足の一閃で柔らかで無防備な腹の肉を切り裂けるであろう。

しかし三十分ほどが過ぎ、彼は立ち上がって、忌々しげな不満の唸り声を動かぬままの毬に向かって上げると再び駆け出し始めた。彼は過去に何度もハリネズミが毬の形を解くのを待ったことがあったが、そのような徒労はもう御免であった。彼は右の分かれ道をずっと走り続けた。時は過ぎてゆくが、未だになんの成果も無かった。

彼の中で目覚めた父親の本能が強く彼を駆り立てていた。どうしても肉を見つけねばならなかった。午後になって、彼は間抜けなライチョウと出くわした。彼が藪の中から出てくると、なんと目の前にドジな鳥がいるではないか。そいつは倒木の上、彼の鼻先から一尺と離れぬところに立っていたのである。お互いの目が会った。その鳥は慌てふためいて飛び立とうとしたが、彼は前足の一撃を喰らわせて地面に叩きつけると襲い掛かって飛び立とうと雪の上で激しく羽ばたくのに咬みついた。その歯が柔らかな肉と脆い骨を噛み砕いたとき、彼は本能的に食べてしまおうとした。しかし、すぐに新しく目覚めた別の本能が、ライチョウを口に銜えたまま彼を帰路へと向かわせた。

分かれ道から一マイルほどのところで、先行きに細心の注意を向けながら、いつも通りビロードのように柔らかな足取りで滑る影のごとく走っていた彼は、今朝方見つけたのと同じ大きな足跡を見つけた。彼は、それに誘われるように、しかし流れが向きを変えるたびに、その主と出くわさぬよう注意しながら跡をつけていった。